続・戦いの礎 PART-3


 ラグオルの森での訓練中、はぐれたチビ2を襲う危機(?)。
 間一髪キリークに救われるも、新たな危機がチビ1、3に迫る!
 キリークはちびっこたちを守りきり、依頼を無事果たせるのか?
 そしてモンタギューの、エルノアの動向は?
 感動の(?)完結編、いまここに公開!



 キリークの鎌がひらめく。
 死の乱舞。美しくさえある紅き軌跡の、その一舞いごとに、一匹の狼が命を散らす。
 三分たたずして、サベージウルフとバーベラスウルフの群れは、ばらばらの肉塊と化して血溜まりに沈んだ。
「ぱぱあああ!!」
「うわああああん!!」
 倒れて動かない末弟の傍らで、チビ1とチビ2が泣き声をあげる。
 キリークはアイテムパックからムーンアトマイザーを掴みだし、彼らのもとに駆け寄った。
「こわかったよおお!!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、僕のせいでチビ3が……!」
「おちつけ、大丈夫だ!」
 一喝して、チビ3を抱え起こしアトマイザーを使うキリーク。
 やがてゆっくりと、小さなヒューキャストは彼を見上げる。
「あ、ぱぱ、やっぱりきてくれたんだね……」
『死亡』(正確には瀕死)のショックでメンタルコードにエラーがでているのか、ひどく弱々しい口調で呟いて、それでも安心した様子でチビ3はキリークの胸にもたれかかった。
「チビ3……」
「よかったああ……」
 やっと落ち着いて、キリークの腕の中の末弟をのぞき込む二人。
「………………。」
 気がつくと、キリークは我知らず手を伸ばし、広い胸の中に三つ子の兄弟を抱きしめていた。

 姿が似ているから、ではない。
 パパと呼ぶようにプログラムされているからでもない。

 彼らの全ては、キリーク自身のデータをもとに、造られている。

 彼がいたから、いまここに彼らがいるのだ。

 彼らは、確かに、キリークと誰よりも深いつながりを、絆を持って生まれてきたのだ。

「ぱぱ………どうしたの?」

 初めて、キリークは、彼らにぱぱと呼ばれることが嫌じゃないと思っていた。

「ラグオル地表、森第1エリア、標準時11-53。
 若干のトラブル発生、損害軽微。訓練行動に支障なし、任務は継続する。
 およそ10分後に、第2エリアに移動予定。オーバー。」



 メンタルコードのエラー修正が終わるまで、キリークはチビ3をおんぶしていくことにした。
 逞しい背中に身をゆだね、チビ3は安らかにコード修正の為のスリープモードに入っている。
 残りの二人は、キリークに寄り添うようにして、周囲に気を配りながら歩いていく。
「研究所では、おまえら、どんな扱いをされてたんだ?」
 キリークはふと尋ねてみた。
「ん?んーと、もんたぎゅーはかせもエルねーちゃんも、助手のひとたちも優しくしてくれたよ?」
「だが、ずっと開発コードで呼ばれていたんだろう?」
 今まで思い出すこともなかった、訓練時代のキリークの過去。
 記憶の片隅に追いやったままだったそれにふと触れてしまい、苦い思いで振り払う。
「はかせは、ちゃんとした名前をくれるのは、チチオヤノトッケン(父親の特権)だっていってたよ。
 先に名前があったら、ぱぱが僕らに名前をくれられないでしょ?」
 屈託なくいうチビ2。
「ぱぱにすっごくあいたかったけど、名前をもらうのもたのしみだったの。
 LKじゃなくて、チビ、ってよんでもらうの、うれしいな、僕。」

 殺人機械に名前を与える必要を認める者はなく。
 殺人機械に愛情をかける必要を認める者はなく。
 『黒い猟犬』の呼称すら、彼のためだけに用意されたものではなく。
 彼は彼になるために、たくさんの『彼の候補』と戦い、葬り去った。
 そして、彼は血とオイルに染まった手で『彼』を掴み取り、自分で自分に名を付けた………。

 キリークは足を止めた。
「チビ1、2、3はやめだ!」
 気づいたとき、彼は荒々しく叫んでいた。ちびっこたちが驚いて彼を見上げる。
「番号なんぞは名前じゃない!
 ………俺でいいんだな、お前たち。お前たちに名を与えるのがこの俺で、本当にいいんだな?」
 人間だったら、泣いていたかもしれない。
 これほど熱い感情が自分にあったことに自分で驚きながら、キリークはちびっ子たちを見た。
「名前………くれるの?ぼくらのほんとの名前、くれるの?」
 キリークは、最後の覚悟を決めて、頷いた。
「とはいえ………俺も誰かに名前をやるなんてのは初めてだからな。
 なにか………いい名前………うーむ………。」
 しばし悩むキリーク。
 データバンクの中から、いろいろな名を引きずり出してみるが、なかなかそぐうものがない。
 人間の言う『産みの苦しみ』というのはこういう事か?(←激違)
「………イーニィ、ミーニィ、マイニィ、ムゥ………」
 やがて、ふっと口をついて出る言葉。
「ぱぱ?」
「………古代の童歌だ。データバンクのなかにあった。

 イーニィ、ミーニィ、マイニィ、ムゥ
 インディアンを捕まえた
 騒ぐようなら放しておやり
 イーニィ、ミーニィ、マイニィ、ムゥ

 その………これでもいいか?」
「わああい!ぱぱ、ありがとお!」
 今まででこれに比肩するのは初対面のときぐらいだろう、嬉しそうにはね回るチビ………
 もとい、イーニィ・ムゥとミーニィ・ムゥ。
 キリークの背で眠っていたはずのマイニィ・ムゥが、いつ目覚めていたのか、そっと彼の首に抱きついた。

「ラグオル地表、森第1エリア、標準時12-25。
 あー……その…なんでもない!
 やや遅れたが、これより第2エリアに転送を開始する!オーバー!」
「ぱぱぁ、早く早くぅ!!」
「ああ、今行く。―――――感謝する、モンタギュー。」
 キリークは小さく呟いて、待っている『息子』たちのもとに歩き出した。



 ラグオル地表、森第2エリア。
 DFが倒れたいまも、雨雲は晴れていない。
 未だ破壊神の影響が去らぬ事の象徴のように、あるいは犠牲となったパイオニア1住民の鎮魂のように。
 薄暗い空から、今日も灰色の雨が地に落ちる。

 そんな陰鬱なエリアに、その午後はあの爆発以来殆ど初めての、にぎやかな声が響いていた。



「ぱぱー、ほら、とりさんとりさん!」
「こら待てミーニィ、ラッピーは………」
 ぢぎいいん!!
「ぴぎゃーーーーー!!(泣)」
「遅かったか(汗)」



「えい、やあ!」
「きりがないよお………」
「モネストを先に倒すんだ!」
「よーし、僕がやってやるう!」
 ………………どぼおん!
「ぱぱー、イーニィが袋のなかにおっこちたあ!」
「………………(頭痛)」



「ヒルデベアは正面に立つな………危ないマイニィ!!」
 がぎいん!
「ぱ、ぱぱああ!!」
「なんのこれしき………!」
「ぱぱかっこいい(ぽ)」
「えーい、見惚れる暇があったら倒さんか(怒)」



 ラグオル地表、森第2エリア、標準時14-45。
 セントラルドーム前で、一行は最後のエネミーの群れを撃退した。
「任務完了、というところかな。」
 ほっと一息つく気分のキリーク。
 どうやら一応さまになってきた子供たちを見やる。
 それなりの成果は上がったと考えていいだろう。
 彼らは、入り口の壊れたドームを興味深そうに眺めていた。
「ぱぱ、このなかには入れないの?」
「ああ、ここからは無理だ。
 例の爆発まで、ここには3万近い人間やニューマン、アンドロイドがいたのだがな。
 ほとんど全員………死んだ。
 この星に眠っていたバケモノを利用できると考えていた欲深い愚か者が、禁忌に触れたために……。」
 俺もその一人になるはずだったのだ。
 そうなっていれば、この子たちに出逢うこともできなかったのだな……。
 珍しくもしんみりした気分になってドームを見上げていたキリークは、ふと我に返って見回し………
 一気に全身のオイルとバイオリキッドが凍り付いた。
 ちびっ子たちが、敷地の隅の大型転送機をいじくり回している。
「ちょっと待てええええええええ!!!!!」
 100mを9秒5ほどかという記録的速度で敷地を駆け抜け、襟首掴んで引きずり出そうとして………
「あ゛。」
 勢い余って、キリークの足は転送エリアの床に踏み込んでいた。

 以下略。



 パイオニア2、ハンターズギルド、標準時15-30。
「たっだいまーーー!!」
 エントランスの自動ドアが開ききらないうちに、小さなヒューキャスト三体が先を争って駆け込んでくる。
「…………今帰った。」
 更に少し遅れて、ずりずりとロビーに現れる長身のヒューキャスト。
「おかえり、お疲れさま。おや、坊やたち、予想以上にレベルアップしたようじゃないか?」
 モンタギューがきゃいきゃいはしゃぐちびっ子たちをにこやかに出迎えながら言う。
「…………予定外の戦闘をやってきたのでな。」
 口をきくのも億劫そうに、キリークは呻く。
「いやいや、そいつはお疲れさまだったねぇ。」
「他はどーでもいいが、例の大型転送機に触るな、ぐらいは教えておけ!
 おかげで手持ちのアトマイザーを使い切った。5000じゃわりがあわんぞ、モンタギュー…………」
「あの子たちを連れてのドラゴン戦じゃ確かに大変だったろうね。
 けど、おかげさまで予定外のデータも得られた訳だ。感謝するよ。」
 床に屈みこんだキリークにニッコリと笑いかけ、モンタギューはエルノアに呼びかける。
「とりあえず、子供たちにはメンテナンスとチェックが必要だろう。
 イーニィとミーニィとマイニィを連れてラボに行きたまえ。」
「はああい、はかせ……」
「ちょっと待てえええええ!!」
 へたり込んでいたキリークが、やにわに科学者につかみかかる。
「聞いてたのか!?聞いてたんだな!?ぜええんぶ、聞いてやがったのかお前わああああ!!!!」
 若きニューマン科学者の胸ぐら掴んで吼え猛るキリーク。
 エルノアと子供たち、周囲のハンターズが、仰天して彼らを見る。
「そりゃもうばっちりと。」
 にこやかに、モンタギュー。
「き・さ・ま…………」
 子供たちとのあれこれが全て筒抜けだったと知って、キリークは稼働して初めて、その辺に穴掘って埋まりたい、というほどの羞恥心を味わっていた。
「…………殺す前に言い訳ぐらいは聞いてやるぞ。」
 押し殺した低い声で、やっとそれだけ唸る。
「キリーク、あの子たちに君をパパだと言っといたのは間違いじゃなかったね。」
 微笑むモンタギュー。
「一切飾らぬ態度で、あの子たちに接して欲しかったんだ。
 その上で得られるお互いの信頼が、必要だった。あの子たちにも、君自身にもね。
 それとも…………あの子たちの『父親』はもう御免かい?」
「………………………………。」
 キリークはモンタギューを睨みつけ、ついで子供たちと目を合わせ、もう一度モンタギューを見つめ………………
 肩を落として、襟首から手を放した。
「お前の勝ちだ、モンタギュー。」
 モンタギューは、襟元を整えながら晴れやかに微笑んだ。



「ぱぱ、またね!」
「またあそんでね!」
「こんどは、あいにきてねぇ!」
 エルノアに連れられて帰路につきながら、キリークの息子たちが手を振る。
 彼らに手を掲げてやり、研究所エリア方面へのテレベーター(艦内転送機)に消えていくのを見送って、
キリークはモンタギューをじろっと見る。
「それはそれとして、スターアトマイザーとムーンアトマイザー各10個の請求書をラボに回すからな。」
「そうだね。そうしてくれたまえ。」
 あっさりと応じて、自身もテレベーターへと向かうモンタギュー。
 ふと振り向いて、イタズラっぽく笑う。
「キリーク。」
「ん?」
「次は洞窟で頼むよ。」

 その日、かなり多くのハンターズが、ギルド玄関脇の壁に向かって膝を抱えてめげているヒューキャストを目撃したという。



 後日談。

「エルねーちゃん、お勉強おわったよぉ!」
「あらあ、随分早くおわりましたねえ。」
「ねえ、ぱぱはこんどはいつあってくれるかな?」
「そうですねえ…………先週あったきりだし、問い合わせて来ましょうか。」
 キリークにはギルド経由でないと連絡が取れないため、出かけるエルノア。
「…………そうですか、ちょうど仕事中…………困りましたねえ。」
 受付で考え込むエルノア。ちびっ子達の落胆は見るに耐えない。
「どうしたんだい、エルノアさん?」
 振り向くと、アッシュ・カナンが通りかかったところだった。
「ええと、ぢつは…………。」
「ふむ、研究所で預かってる子供の遊び相手か。いいよ。俺が引き受けよう。
 なに、まかせとけ。子供の相手ぐらい楽勝さ!」
 アッシュはにっこりとエルノアに笑いかけた。



 合掌。


ども、あとがきです。

いくら執筆時正月休みだったとはいえ、まさか三日で完成しようとは(汗) 
当初、オンラインでの友人とのチャットのときは、
「モンタギューのイタズラ趣味でちびっこたちを押しつけられたキリークさんの受難」
という設定だったのですが、
「いやあ、キリークはいい父親になりそう・・・」(BABERU様)
「いいですね〜、パパキリーク」(赤い彗星専用レンジャー様)
(ソニックチームBBS投稿時)
他にもオン仲間が直接感想くれたりしたのが原因で、気づいたらマジにキリークさんがぱぱになってしまいましたっ(爆汗)
「こんなんキリークと違うわあああ!!」とお思いの皆様ごめんなさい(平伏)。
でもキリークさんがしあわせになったから、私的には万事おっけい(おい)。

元気モノでいつも真っ先に飛び出す、戦いもがんばっちゃうチビ1ことイーニィ。
好奇心旺盛で、目を離すとどこ行くかわからないチビ2ことミーニィ。
本当にキリークを元にしてるのか、ってぐらいおとなしいけど、芯は強いチビ3ことマイニィ。
私的には書いているうちに彼らがそんな風に見えてきたのですが、書き分けられていますでしょうか?
ちなみにこの歌、日本で何か決める時に言う、『どちらにしようかな、神様の言うとおり』
のイギリスやアメリカバージョンなんだそうです(^_^;)>。
(P.L.Travers "MARY POPPINS IN THE PARK"『公園のメアリー・ポピンズ』より)

なお、私の書くモンタギュー博士は、PSO4コマの梅本ひとみ先生描くところのもんた様に多大な影響を受けていると思う今日この頃。
で、アッシュくん、問答無用にごめんなさい。m(_ _)m

ところで余談ですが、執筆中、
「モン太の趣味(爆)で、キリーク本人が子供の身体に修復されてしまう」
というネタ思いついてしまいました(邪悪)。
誰か書いてみてくれません?(踏)


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