M.D.F.L.-インターミッション-

その1

「リアラ……」
 リアラは振り向いた。
 ナイトメアの闇の空間。きらきらと、青と銀色の光の粉を撒きながら佇む、華奢な姿。
「ナイツ……?どうしたんだ……?」
 “彼”が自らここに来ることなど、考えても見なかった。
 戸惑うリアラの前で、ナイツはひどく思い詰めた表情で口を開いた。
「ずっと……考えていた」
「?」
「おまえの心……それとオレ自身の心を」
 俯いて、一言づつ。細い指が、きつく握りしめられるのを、リアラは見た。
「ナイツ…?」
「そしてやっと、気がついた」
 ナイツは顔を上げた。
 リアラは思わず、少し身を引いた。
 ナイツの眼。
 深く澄んだ、紫水晶の大きな瞳。
 そこに、涙があった。
 リアラの見ている前で、それはすこしづつ、ナイツの頬を伝い落ちた。
「オレも……おまえが、好きだ」
「ナイツ……?」
 すみれ色の夢魔は、涙を湛えた瞳のまま、やさしい微笑みを浮かべて“彼”の肩に顔を埋めた。
「リアラ……」
「ナ…ナ…ナイ…ツ!?」
 心身共に真っ白になって硬直するリアラ。ふるえる鈎爪で、“彼”はようやくナイツの薄い肩を掴んだ。
 ナイツは涙に濡れた眼でリアラを見つめ、そしてわずかに顔を上げてそっと瞼を閉じた。
 絹糸のような長い睫毛が、細かく震えていた。
 リアラは意を決し、ゆっくりとナイツの顔に自分の顔を近づけていった。

 その時―――

(待てよ。また……これも、夢なのでは?)

 リアラは息をのんだ。そして、ためらいながら、自分のかぎ爪を青白い頬に押しつける。
「リアラ?」
 ナイツが眼を開き、けげんそうに問いかけてくる。
 リアラは思い切り、自分の頬をつねり上げた。

「痛てーーーっ!!」

 リアラは飛び起きた。
 “彼”は自分の頬をつまんだまま、“彼”の大きく豪華な寝台にいた。
「ナイツ………ナイツ!?」
 見回しても、だれもいない。
 リアラはたった一人で、“彼”の私室にいた。
「と……いうことは………」
 次の瞬間。

「ああ〜〜〜っっ!!何でつねっちまったかな、私は〜〜〜〜っっ!!」

 悲痛な絶叫が、薄暗い室内にこだました。

「ナイツ……ねえ、ナイツ!!」
「ん……んぁ?」
 ナイトピアの心地よい日溜まりの中。ナイツは聞き慣れた呼び声に、まどろみの中から浮上した。
「あ…よぉ、クラリス。遊びに来たのか?」
「ずいぶんよく眠っていたわよ」
 眼をこすって伸びをするナイツに、クラリスは微笑みかける。
「どんな夢を見ていたの?」
「どんな夢……って……」
 突然、ナイツの頬はぽっと紅潮した。
「あれ?」
「ど…どうしたの?」
「いや……忘れちまったんだけど……何で顔が?」
 ナイツは頬に両手を当てて、ひどく当惑した。
「ヘンだな……何か……。
 すごく大切なことを……忘れちまったような気がする………」

「ナイツウゥウ〜〜〜〜ッッ!!」
「リアラ様っ!!洪水になるほど泣かないでくださいぃぃっっ!!!」

その2

 ナイトメア。
 本来なら好んで訪れる人間(ビジター)など存在しない、闇の空間。
 そこにその日、あえてやってきた訪問者があった。

「あ、いたいた。
 ねぇ、リアラ!?」
 ハンカチ絞っていたリアラは、驚いて青い髪の少年を見た。
「エリオット?珍しいな、何の用だ?」
 少年は少し戸惑ってから、意を決して口を開いた。
「君さえよければ、僕がナイツに君の気持ちを伝言(つたえ)………」
「言うな」
 皆まで言わせず、リアラはどアップでエリオットを睨みつけた。
「わぁ」
 ビビる少年。リアラは溜息をついて、エリオットに背を向けた。
 ひどく憔悴した表情で、頭を抱える。
「自分で言わなければ意味がないだろう。
 だが……伝える勇気が、私にはない」
「困ったねぇ………」
 エリオットは宙を見つめて考える。
「人間界にはラブレターって手段があ」
「それだああああっっっ!!!!!」
「わあっ!?」
 少年の目の前1センチに鈎爪をつきつけて、リアラは叫んだ。

 一時間後。
「よ……よーし、これでできたぞ」
 書き損じの山に半分埋まって、リアラは一枚の便箋を掲げた。
「どれ?ちょっといい?」
「読むなよ」
 あわててエリオットの目から手紙を隠すリアラ。
「いや……別に興味で見たいんじゃないよ。間違って失礼な事書いてたらどうするの?」
「なるほど……」
 リアラはためらったが、青白い頬をかすかに染めて、少年に手紙を渡した。
 エリオットは短い文章に目を通す。
「ど…どうかな、これで?」
 リアラは鈎爪の指を絡め合わせる。
「リアラ………これ……」
 少年は困惑してリアラを見た。

『ナイツへ。
 これまでの決着(けり)をつけたいと思う。
 ついてはナイトメアの、私の領域に来るがいい。
                   リアラ』

「コレ、どうみても果たし状の文句だよ」
「おわあぁぁぁっっっ!?」

おしまい。


手紙が何語で書かれていたかについては、深く考えないでくださいませ(^_^;)←おいおい


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