「………先日は不覚をとった」
リアラは真剣な顔で呟いた。
「やはり考えなしはいかんな」
「不覚とかいうレベルの問題ではないよーな…」
ジャックルは数日前、完璧に目を回して肝心のナイツ(見かねたらしい)に送って貰って帰ってきたリアラの姿を思い出し、一筋汗が流れるのを感じていた。
「…で、今回は何か良いお考えでも?」
「うむ」
ジャックルの問いに、リアラはかねて用意の品物をどんっ!とテーブルにのせた。
銘酒『美少年』(作者注:なんか実在するらしい)特級大瓶。
「はあ…?」
「人間を観察してみた。
惚れた相手に酒を飲ませるアプローチのやり方があるらしい」(←違うと思う)
大切そうに、リアラの掌が瓶を撫でる。
「……でもお二人とも体力能力全く同じでしたよね。
お酒の耐性も一緒じゃないんですか?
同時に酔って倒れるのでは」
「その辺にも抜かりはない…対策も学んである」
リアラの瞳が鋭く光る。
「これこの通り、ちゃんと目薬も用意したああっっ!!」
高笑いとともに小さなプラスチック瓶をびしいっ!と掲げてみせる。
(作者注:『酒に目薬を入れると悪酔いする』という俗説(迷信?)があります。←言うとくが試すなよ
夢の世界は人間のイマジネーションが作用するので、このテの俗説もある程度通用するということにしといてください)
「はあ………」
さすがのジャックルも疲労感をおぼえて、とりあえずその場を辞する。
「じゃ、ベッドの用意をしておき」
げしいっっっ!!
「犯罪だそれはああっっっ!!!」
リアラの蹴りがジャックルの後頭部にまともにきまった。
「しらふじゃ告白できないだけだっっっ!!」
いや…酔い潰すだけで充分犯罪だと思うが………。
場面は変わって、ナイトピア。
スプリングバレーの空をピアンと遊び歩いていたナイツは、ふと地上に目をやった。
「ん?」
見覚えのある赤と黒の角、赤いベストにアイスブルーの衣装。
こちら側では違和感てんこもりの姿が何やらきょろきょろとあたりを見回している。
「おおーい、リ・ア・ラ!」
頭上から呼びかける声に、リアラはびくん!と跳ね上がった。
「や…やぁ、ナイツ」
あたふたと、持っているものを後ろ手に隠す。ナイツは特に気にせずに、青銀の星くずのような光を撒きながら地上に舞い降りた。
「最近こっち(ナイトピア)でよく遭うな?」
「そ、そうだな、いや不思議だ」
ははははは、と意味なく笑うリアラ。
「……………。
お前がこっちに来るからだろーが」
ジト目になって、ナイツはひたすら笑うリアラを見やる。
「何か用なのか?
それと……この前、大丈夫だったのかよ」
まったく意味のないまま笑い続けていたリアラは、その言葉で我に返った。
「あ………そ、そうだな。
その件でちょっと………。
どうだ、一杯付き合わんか」
後ろ手に持っていた酒瓶をナイツの目の前にぶら下げてみせる。
「酒……か?
呑んだことねーぞ、俺」
少し困惑するナイツ。
「まぁそう言わず、呑んでみろって」
言いながら近くの草地に腰を下ろし、リアラは瓶の封を切る。
かぐわしい芳香があたりに漂った。
香りにつられてか好奇心か、ナイツもリアラの隣に腰を下ろした。
二つの美しいクリスタルのグラスに、リアラはとくとくと酒を注ぐ。
光を透して、グラスは美しく煌めいた。
「私も呑むからな」
一つをナイツに渡し、軽く自分のグラスの縁を触れあわせてから口に運ぶ。
「………どれ」
ナイツはグラスを口元に寄せて、2、3度唇を湿らせるように酒を舐め……その後くーーっ、とグラスを傾けた。
「………ふぅ。
旨いもんだな」
一気にグラスを干して、機嫌良く笑う。
リアラも一息にグラスを空けてナイツに笑いかけてみた。
「実はワイズマンさまの秘蔵品を持ち出してきた」(おいおい)
「そいつぁいいや!!」
笑いこけるナイツ。
「どうだ?もう一杯」
「ああ」
しばらくそうして、並んでグラスを傾ける。
「………」
頃合いを見計らい、リアラはナイツのグラスに注ぐ何杯めかの酒に、隠し持った目薬の滴をこっそり落とし込んだ。
内心冷や汗をかきつつ、横目でナイツの様子を盗み見る。
とくに疑う風もなく、ナイツはグラスの中身を飲み干した。