M.D.F.L−Part2−2

「……結局……また来てしまった」
 リアラは額に右腕をかざして、スプリングバレーのやわらかな陽射しを遮った。
 少し向こうで、数体のピアンが浮き石を渡って遊んでいるのが見えた。

「……光の世界は苦手だ」
 ふぅ、と溜息をつく。
 
 でも、ここに来ればナイツがいる………
 
 酔っぱらい騒ぎからときどき、こっそりリアラは楽夢界を訪れていた。
 エリオット・エドワーズとクラリス・シンクレアとかいう二人のビジター…そいつらとナイトピアンに囲まれて、ナイツはいつも幸福そうに笑っていた。
 
 あの場所に、いたい。あいつらの居る、あの場所に。あいつらでなく、自分が。
 あの微笑みが、欲しい。ひとかけらでもいいから。
 思いながらいつも、リアラは離れた木陰からこっそり彼らを見ているだけだった。
 一足前に出る事が、どうしてもできなくて。

 あとで辛くなるだけ……判ってはいるんだが。

 溜息をもうひとつ。

「………大丈夫?ナイツ……」

 リアラの背後の方で、聞き覚えのある少年の声がした。
「ん?」
 リアラは(なぜか)その辺の木の枝を角と頭にくくりつけ、薮越しに声の方を伺った。
 いつもの子供達二人。上体を屈めて、ひどく不安そうに地面に座り込んだナイツの様子を見ている。
 ナイツは青い顔をして、鳩尾のあたりに片手を置き、大きく息をついていた。

(ナイツ………?どうしたんだ?)

「あう゛〜〜…き、気持ち悪りィ………」
「……ほ、ほんとに大丈夫っ?」
「…レモンか何か…酸ッぱいモノ、ないかぁ…?」

 がごぉんっっ!!! 

 リアラの頭を16tハンマーが直撃した。←古典的表現

「う゛……!う〜〜〜!!」
 いよいよ顔を青くして、口元押さえてうずくまるナイツ。
「わぁ、ナイツっ!!」
「しっかりしてっっ!!」
 慌てて二人がナイツの背をさする。リアラも泡を喰らって、思わず手を振り回しつつ身を乗り出した。

 がささっ。

 つんのめって身体が前に泳ぐ。リアラは薮を突き抜けて、三人の前に転がりだしていた。

「あ」

 一瞬、真っ白い沈黙がその場を支配する。
 次の瞬間――――

「ナイツウうぅ〜〜〜〜〜っっ!!」
「何だ―――――――――っっ!?」

 がばあ!!と立ち上がったリアラが、狂乱状態でナイツに飛びかかり、ぐわしっ!!と抱きしめる。
「☆☆●○◎△□■◇◆!?」←混乱中
「せっ…責任は全て私がとるううっっ!!」
「?????」
「ワイズマン様にもきちんと話す!!」←錯乱中
「おっ……おい」
「だからっ、だから…………
丈夫な卵を産んでくれっっっ!!」
「あほか―――――――――っっ!!」
 
 ぺぐしいッッッ!!!

 ナイツのアッパーカットが、リアラの顎をまともに捕らえた。

「ぺぶっっ!?」

 リアラは吹っ飛んで、ピアンたちの持ってきた特大ケーキに頭から突っ込んだ。
「ただの喰いすぎだ、ただのッッ!!」
 真っ赤になって、ナイツが絶叫する。しばらく息を整えて、“彼”はクリームまみれのリアラを睨み付けた。
「第一、なんでお前が責任取るんだ?身に覚えはないぞ、オレは」
「いや…その……」
 我に返って、対応に困惑するリアラ。口の中でもごもご言っている“彼”の様子に、エリオットはあることに思い当たった。
「ねえ……リアラ?」
 ちょっと警戒しつつ近寄って、耳打ちをする。

「あの…君、もしかしてナイツの事を……」

 どっき――――――ん!!

 胸の奥に爆発しそうな衝撃が走って、リアラは跳び上がる。
 
「うっ…うわあああああぁぁぁぁ〜〜〜〜!!」
「あ……逃げた」 

 ドップラー効果を伴った絶叫を後に残し、リアラは渾身のドリルダッシュでその場を逃げ出した。

「……何をしに来たんだ、あいつ」
 呆気にとられて空を見るナイツ。
「何を言ったの、エリオット?」
 不思議そうに問いかけてくるクラリス。
「いや………」
 まったく判っていないらしい二人の様子に、内心溜息をつきつつエリオットはこっそりリアラに同情した。


 悪夢界。

「ねぇジャックル、リアラ様は〜?」
「パフィー…いや、どうもまた楽夢界に行かれていたようなんだが…」
 ジャックルは汗ジトでリアラの私室の扉を指し示した。

『立入禁止』『入るな』

「帰って来られてからずっとこの調子で……何があったのやら」
「………………(汗)」


「ナイツウうぅ〜〜〜〜〜〜!!」(T‐T)



おわり。


あとがき 〜続・最凶最悪の初恋

…てなわけで、リアラ様のすちゃらか純情(?)番外編の続きです。パラループブチかまされる危険度更に上昇。
 冷酷で残忍だけれど、一度こうと決めた相手にはとことん忠実なこのファーストレベル様、ついついおちょくりたくなってしまうんですよねぇ……
 すまんリアラ、これも“愛”だ。←我ながら歪んでおるなぁ…
 今回は(『は』?)不幸なリアラさんでした。合掌。

 前半のモチーフは道原かつみ先生の『ジョーカー』シリーズのあるエピソードと、歌の『♪もしも願いが 叶うなら〜』(すいません、正式題名知りません)です。
 
 資料によると、ナイトピアンは体内に小さなイデアの力と同じ物があり、接触することでその力がぶつかりあった結果(相性もあるのかな?)卵ができるらしいです。
『想い』がそのまま結実するんですね、きっと。
 混血可能な以上はメアンも同様…なんだろーな、多分。さすがにジャックルの冗談みたいに、特定個人への強い想いだけでできちゃうってのはないと思うが。
 ちなみに海外ファンの小説ではメアンも雌雄の別があるという設定が一般的で、ナイツとリアラは男性の、たいてい双子扱いです。たまにどちらか一方が先に創られたということになってるのもあるようですが。

 なんだかんだ言っても、エリオットに気づかれたことで一応一歩前進…か?リアラさん。
 というか、ここまでされて気づかないナイツの方に問題があるよーな気もするが。
 ウチのナイツって、そういう感情についてはまだ未熟…ちょっちお子さま寄り、てことになってますんで。

(ごめんね、リアラ)

H.11.10.30.   FEN.


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