博士の理不尽な日常、最終話 kei 2001/05/03
皆様コンバンワ。
長々と書いてきたこのお話も遂に最終話です。
思えば、謎の衝動に突き動かされてこのお話を書き始めましてから、かれこれ2ヶ月・・・長いような短いような。
まぁ感慨深いものも在りますが、うだうだと前書きばかり長くても仕方在りませぬのでさくっと行きましょうw
えと、バックナンバーを
KANNA様のHP
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にて転載していただいておりますー
まことに感謝です。
それでは参りましょう、最終話、どうぞです
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「そう、思い出したのね・・・全部」
ソフィがポツリと呟く。
思い出す。
ただ、それだけの事。でも、それだけの事がその場の全員にとって計り知れぬ重さを持つ。
ペディの、いやエンサイクロペディアの脳裏に浮かぶ、リアルな感覚。
紅蓮の炎と深紅の鮮血。赤い赤い風景。
爆発で、吹き抜けになった天井から覗く、澄み切った青い空。
何か、遠くのことのように、自分が行う事を見ている自分。
自分の体は自分のものでなく、それでもやはり間違いなく自分のもので。
残された真実は、血塗られた自分。
「っ・・・・・・!」
ペディが胸を押さえる。既に無いはずの傷が酷く痛い。
死んだはずの自分。ここにいないはずの博士。自分の手で壊したジャド。
全てが噛み合わない。希薄になる脆弱な世界。
「私は、誰なの?」
ペディが呟く。
今まで疑問にも思わなかった、記憶の始まりが唐突だった事。
でも、今なら分かる。あれがどういうことか。
自分が自分じゃないという事に動揺する。
希薄になるアイデンティティ。
ケイがふいに口を開けた。
「ペディはペディ。貴方はどこまで行っても、ペディでありエンサイクロペディアですよ」
博士の理不尽な日常
最終話「SKY」
「ペディは、生き残ったんです・・・あの、大惨事から。私やジャドとともにね」
ケイが続ける。
「あのときの事を、思い出したのなら自分から逃げたくなるのも分かります。それでも、ペディはペディなんですよ。其の事から目をそらしちゃいけない」
すっと、ペディに近づくケイ。
「それに、貴方が貴方であるように、私たちも私たちですよ。確かに・・・ソフィの性格はちょっとばかり歪んでしまったかも知れないけど、みんな昔と代わりません。安心してください」
「私の性格が歪んだってのは、余計です博士! 第一、誰のせいだと思ってるんですか・・・」
ケイを後ろから蹴り倒したソフィが複雑な表情をする。
「気にするなっていっても・・・無理でしょうけど、これだけは言えるわ。ペディは何も悪くないのよ。悪いのは、私の・・お父さん、お母さんだから・・・」
暫く視線を落とした後、顔を上げるペディ。
其の表情はいつもの明るい其れである。
「あの・・・其の事なんですが、一つ思い出したことがあります」
ペディが申しわけなさそうに口を開いた。
「私、実はハッキングを受けてたんです」
「えぇ、あのとき調査中だったアーカディア博士から貰った物からのハッキングでしょう?」
ケイが答える。
「いいえ、それだけではないんです。同時に何箇所ものコンピューターから。幾ら未知物質からのハッキングとは言え、私こう見えても世界でも有数のホストコンピューターシステムだったんですよー。そう簡単にデータの書き換え喰らったりしませんー。」
いつもの、間延びした口調でペディが答える。
ケイが一瞬呆然とした後、顔に手を当てて心底嬉しそうに笑いだした。
「ぐっふっふっふ・・・そう言う事ですかペディ。どうも上手すぎると思っていたのですよ。・・・これで、全ての元凶が、ハッキリしました・・・」
状況が飲み込めないジャドとソフィ。
「おいケイ。一体どういうことなんだ?」
「ふふふ・・・そうですねぇ。本当の原因が見つかったのですよ。真の悪者がね・・・」
「・・・本当の原因?」
「えぇ、全ては仕組まれた事だったのですよ・・・決して、事故ではない。力への過ぎた欲求が、何人もの命を奪ったのです・・・研究所のみんなも、アーカディアも・・・。」
低く吐き出すようなケイの台詞。しかし、其のマスクのしたの表情は窺い知れないものの、酷く喜びに満ちていたに違いない。
証明された友の潔白と、明らかにされた真の闇。其の存在に、ケイは歓喜する。不思議と怒りは少ない。
「自分の犯してしまった罪を忘れる事は出来ませんが、今は悔やんでいるときでは在りません。私が今もこうして生きているのは、やることがあるからですよねー?博士♪」
ペディが皆に笑顔を向ける。強がりだ。そうは分かっている。でも、彼女の言う通り落ち込んでいるときでもない。
「えぇ。」
博士が親指を立てる。
「リベンジです!」
・・・
世界有数の大型企業、アイロニーコーポレイション。
食品事業から兵器開発まで、それこそ何でも行う複合企業である。
その、兵器開発部門パイオニア2本社取締室。
「失礼しますイグニス様。」
部屋にタイトなスーツに身を包んだ秘書らしき美女が入ってくる。
部屋の中央に据えられた、重々しいつくりのデスクに恰幅の良い中年男が一人肘をついている。
「・・・何か用か?さっさと言え。」
彼の名はイグニス・ラルゴート。兵器開発部門でのトップである。
「アーカディア博士の御遺族の方が面会を希望しておりますが?」
秘書が答える。
「アーカディア博士?誰だ其れは」
「お忘れですか?ラグオルの優れた生物たちから抽出される特殊フォトンのデータから其のレプリカをつくり生命体に注入する事で、飛躍的に其の身体能力を高める技術、ネイティヴウェポン。其の開発者です」
「あぁ・・・あいつか。レプリカであるゆえの副作用の危険性などを吹聴して回り、あまつさえ貴重なデータとサンプルの大半をこの世から消し去った愚かな人間だったな。事故に見せかけて家族ともども始末したはずだが?」
「いえ、娘が生き残っていたのです」
「そう・・・か。ふん、追い返せ。・・・其れより・・・」
イグニスがイスから立ち上がる。
「見慣れない顔だな、新人か?どうだ、今夜にでも食事に付き合わないか?悪いようにはせん。」
「あら?イグニス様、それはお断りですわ。」
秘書はにっこりと微笑むと、スーツの内ポケットからヴァリスタを取り出す。
「うふふふ。貴方がお会いにならないのならこちらから参るだけです」
「貴様・・・! くっ! 誰かいないのか!? 警備のものはどうした!?」
「無駄ですわ。ここ以外は・・・」
「全滅だ。」
ジャドが玄関ホールに一人佇む。
其の回りには、無数のガードメカの残骸と完膚なきまでにのされた手練の警備たち。
自慢の愛剣を床にガインと突き刺し、ジャドは腕を組むとそのまま段差にどっかと腰をおろす。
「流石に・・・こたえるな。」
大きな傷こそ無いが其のボディは傷だらけである。
「上手く・・・やれよ。」
ジャドは溜息を一つつくと吹き抜けの天井を見上げるのであった。
・・・
「さぁ、今の会話は録音させていただきました。警察局までエスコート願えませんこと?」
ヴァリスタの銃口をイグニスの額にぴたりと合わせたまま動かさないソフィ。
其の表情は口調とは裏腹に険しく、涼しげな双眸は目の前の人間を真っ直ぐと射抜く。
「勘違いするなよ?そんな玩具怖くも無いわ!」
そう言うと、イグニスは懐から小さなシリンダーを取り出しボシュッと自分の首に打ち込む。
「アーカディア博士と言ったか?奴には感謝してるぞ。見ろこの力!」
イグニスの肢体が一回り大きくなったかと思うと、一足飛びにソフィに迫る。
尋常じゃないスピード。其れは人間の能力をはるかに凌駕している。
壁を深深と穿つイグニスの腕。横っ飛びに間一髪で交わしたソフィは、そのままヴァリスタを3発立て続けに打ち込んだ。
「グギィ!・・・・・ガハァ!!」
「・・・人間じゃないわね。」
すさまじい衝撃力を誇る銃弾を喰らいよろけるも、致命的な傷は負ってない。
其の青に光る狂った眼をソフィに向けると、再び猛スピードで迫る。
計り知れない威力を持った不恰好な右ストレート。かすっただけで人を肉塊に変える拳を紙一重でかわしつづけるソフィ。
豪華なつくりの部屋が廃墟の様相を呈してくる。と、足元の瓦礫にソフィがつまずいた。
イグニスは其の隙を見逃さない。ソフィの体に衝撃が走る。
「か・・・・・・ハァ・・・!」
壁に減り込むソフィ。腕でガードしたおかげで、致命傷は免れた・・・が、
「・・・両腕とアバラ・・・が、折れたよう・・・ね・・・くふぅ!」
イグニスが瓦礫の山からソフィの首を片腕で掴み高高と掲げる。
「くっくっくっくっく。いい様だな!」
「ご・・・ふ・・・!」
ソフィの口から鮮血がほとばしり、イグニスの顔に赤い斑点を描く。
「しかし・・・このままただ殺すのも勿体無いな・・・!」
悪寒を誘う下品な笑みを浮かべるイグニス。空いたもう片方の手をソフィへ伸ばす。
刹那、にやりと歪むソフィの口元。
イグニスの其の手はソフィに届く前にぴたりと止まった。
「な・・・! 体が凍る・・・だと!?」
「ふふふ・・・おあいにく様。私の本業は鉄砲じゃなくて・・・よ。」
ソフィのラゾンデによって、イグニスは氷塊になり其の動きを停止した。
レスタを自分に唱えながら、ソフィが震える自分の体を抱く。
「まったく・・・いくら確実を期すとは言え、この私がこの様なんてね・・・全く、お父さんてば何て形見を残してくれたのかしら・・・くっ!」
レスタで応急措置はしたものの、傷は回復しきれない。
「さぁ。そんなに時間は無いわね。こいつが動き出すのも時間の問題だし・・・」
ふらりと立ち上がるとソフィは部屋を後にして玄関ホールへとむかった。
・・・
アイロニーコーポレイション兵器開発部門パイオニア2本社ビル前。
ケイとペディが灰色の虚構の空にそびえるバベルの塔を見上げる。
本日の天気予報は雨。もっとも、気象管制装置を使っての制御だから予想ではなく『予定』された、人工の雨。
「博士・・・これが終わったら。一つだけお願いしてもいいですか?」
ぽつり、とペディが漏らす。
「これが終わったら、私を・・・私を壊しちゃってください。それこそ、歯車一つ残らないくらいに・・・」
明るく、でも酷く寂しい笑顔で博士を見つめるペディ。
「・・・・・・」
無言で返すケイ。
「私、いろいろ思い出しました。研究所での楽しい日々とか、ソフィちゃんやみんなの笑顔。」
手を後ろに組んで、ペディはくるりとケイに背を向ける。
「でもね・・・もう駄目なんです。思い出したときからずっと、私の内側から私の記憶が侵食されているんです。・・・あの日と、同じように。今はまだ何とか持ちこたえていますが、時間の問題です。」
ぽつり。ぽつり。作られた雨が地面を潤す。
「自分が少しずつ殺ぎ落とされて自分じゃなくなって・・・。怖くて、怖くて。でもそれより、あの日のようにみんなを失う事のほうが本当に消えちゃいそうなくらい怖くて・・・」
振り返ったペディの目から流れるものは作られた雨。それとも、作られた命の作られた涙か。
「だから・・・みんなとの楽しい記憶が私の物であるうちに、私が残っているうちに、私を殺してくださいませんか?」
ペディは儚く寂しく、微笑む。まるで、それいがいの表情は禁忌だとでも言うかのように微笑みつづける。
「貴方は・・・そんな愚かしい事を、悲しい事を言ってはいけません」
そう言うと、ケイは雨にぬれた冷たい鋼の体を抱きしめた。
「助けて見せますよ・・・絶対に。自分の子供たちなんだから・・・」
と、ビルが内側からの衝撃できしむ。
「さぁ、そろそろ時間です。いってらっしゃいペディ。私の最高傑作の力、知らしめてあげなさい!」
・・・
「よぉ・・・随分ボロボロではないか。楽勝ではなかったのか?」
「お互い様でしょ?」
ふわりと、ソフィがジャドに並んで腰を下ろす。
「随分と派手にやったわねぇ。まぁた新聞に載っちゃうわよ?」
「ふん。知った事か・・・どうせ、全部埋めちまうんだ同じだろう?」
「ふふふ、確かにね。・・・さぁ、油売ってる暇はないわ。さっさと表に出ましょう」
ソフィが立ち上がる。
「くっくっく・・・そうだな。・・・だが簡単にはそうさせてもくれないようだ・・・!」
吹き抜けのロビーへと、最上階から落下してくる異形のもの。
「あら、随分早いわねぇ」
「最初から、こんなだったのか?」
「いいえまさか。ここ数分で劇的にイメージチェンジしたようね。」
体の節々が凍りついたままのイグニスは、薬品の効果か其の姿を大きく変え、もはや人間の形はしていない。
両手は青いフォトンの刃へと其の姿を変え、黒光りする体を血管のようにフォトンのイルミネーションが這い回る。
其の鋭角的なフォルムはさながら悪魔、と言ったところか。
一階の床を大きく穿ちながら、四本の手足で着地すると、低く唸りながら其れは立ち上がった。
「・・・来るぞ!」
目視する事すらままならないスピードでイグニスの刃がジャドを捕らえる。
ガイン!
フォトンの鬩ぎ合う甲高い音。
力負けしたジャドが、壁へと吹き飛ばされる。
刹那、イグニスの背後からソフィがダブルセイバーを突き立てる。
背中から腹に貫通した細い刃をそのまま力任せに下へ引き摺り下ろす。
胸から脇腹まで切り裂かれながらも、イグニスは足を後ろに向かって横一線に凪いだ。
吹き飛ぶソフィ。壁に激突しそのまま意識を失った。
「くっ!」
ジャドがイグニスに切りかかる。致死の刃を掻い潜り、剛剣がイグニスの右肩に切りかかった。
ぼとりと落ちる2本の右腕。
イグニスが、腕を切り落とされると同時に其の口から放ったビームにより、ジャドの右腕が焼き切られていた。
「全く・・・メンテ代は出してもらえるんだろう・・・な」
連戦で蓄積されたダメージからジャドが膝を突く。
フォトンのチャージを始めるイグニス、ビームを撃つ気だ。しかもさっきの物とは規模が違うのが見て取るように分かる。
しかし、避ける事もままならないジャド。
「流石にあんなの喰らったら、ただじゃ済まない・・・か」
チャージされた青いフォトンが一気に凝縮される。身構えるジャド。
刹那、三本の光の槍がイグニスの体を吹き飛ばす。
的をはずし、見当違いの場所をビームで凪ぎ張らないながらロビー中央の巨大な柱へと激突し、イグニスは光の槍によってその場に磔にされた。
逃れようともがくイグニスにさらに何発もの光の槍が突き刺さる。
「大丈夫ですか!?」
ペディがジャドの元へと走り寄った。
「俺は平気だ、其れよりもソフィアを・・・」
ペディはソフィのもとに走り寄ると、其の体を担ぎ上げる。
「ジャド様! 早くソフィちゃんを連れて外に・・・! あいつはあのくらいの攻撃じゃ死にません、塵一つ残らぬように止めを刺しますから巻き添えを食わぬよう逃げてください!」
そう言うと、其の手にインフェルノバズーカを転送する。
「待て! 貴様はどうする気だ!」
「私は大丈夫です。まだ一つも怪我してませんし。今までだって見てきましたでしょう?私は何があっても壊れたりはしません!」
極上の笑顔をジャドに向けるペディ。
「さぁ、一刻も早くソフィちゃんをメディカルセンターへ!」
もがくイグニスを真っ直ぐ見据えると、ペディは銃を構える。
「お前をおいていけると思ってるのか?馬鹿にするな・・・。」
ソフィを抱え静かに答えるジャド。
「・・・分かりました。でも、そのままではお二人とも死んでしまいます。あまり効果は期待できませんが、これを使って応急措置をしてください」
振り向かず、ジャドにアイテムを渡すペディ。
「あぁ・・・すまない。・・・・・・なに!?」
アイテムを使ったジャドとソフィの体が虹色の光に包まれる。
「・・・博士の発明したエスケープパイプだそうです。一定範囲内の物体を、ゲート発生のラグなしに転送できるってことで・・・その、嘘ついちゃって・・・ごめんなさい!」
転送される直前、ジャドの見た最後の映像は、本当に申し訳なさそうに謝るペディの姿。
「エンサイクロペディアァァァ!!!」
ジャドがビルから転送されて数秒後、高くそびえるバベルの塔は、パイオニア2史上最大の爆発事故により、雨雲を道ずれに蒸発し其の姿を灰塵へと帰した。
・・・
地面には大穴が穿たれ、船体基部にも損傷が出ている。
塵一つ残さず蒸発した一帯にただ一つの人影だけが残っている。
「素晴らしい・・・この、力・・・奴め私を道ずれに、刺し違えようとしたが・・・まだこうして生きている・・・一人で蒸発とは間抜けな話よ・・・アンドロイド風情が・・・この私にかなうと思った・・・か・・・!」
何も無いクレーターから立ち上がると、足元に転がる焼け焦げた蒼い腕輪を踏みつけ、ぼろぼろの肢体を引きずって歩き出す。
パイオニア2の地下水道。
右腕の無い人影がよろよろと歩く。
「あやつらめ・・・この私をこんな眼に合わせておいて・・・ただですむと思う・・・な!」
復讐に燃える蒼い双眸。地下水道に響き渡る雄たけびを上げ、人影は闇の中へと消えていく。
と、一人の男が其の前に立ちはだかる。
「おやおや、そんな姿になってまでまだ生きてらっしゃるとは・・・生き汚い事ですな」
白衣を着た細身で長身の其の男はにやりと顔をゆがめて、隻腕の人影に歩み寄った。
体に何箇所も穴があき、高熱で外部骨格を溶かされながらも、隻腕の人影は白衣の男に襲い掛かる。
「レプリカ風情が、オリジナルを取り込んだ私に刃向かうとは・・・愚か極まりないですなぁ」
男は自らを殺そうとする目の前の脅威を至って冷静に真正面に据える。
刹那、男の白衣の内側から無数の触手が溢れ、隻腕の人影を飲み込んだ。
其の様は、さながらに捕食。時間にしてほんの数秒、人影は自分よりもずっと小さな男の体内に完全に飲み込まれ消滅した。
「さぁ、全ては終わりました・・・。もう、過去の因縁に引きずられる必要は無いんです・・・みんな」
白衣の男は地下水道の闇に消えていった。
・・・
「一週間前の爆発事故により、パイオニア2が受けた被害は深刻かつ甚大であるとして、総督府は本日パイオニア2のラグオル地表上への不時着を決定し、今日の午後にでも正式発表する模様です。不時着は早ければ明日中にも執り行われ、船内の市民は落ち着いて行動しパニックを起こさぬよう・・・」
テレビで、ニュースキャスターがせわしなく喋る。
メディカルセンターの窓際のベッドで、窓に頬杖をつく女性が一人。
窓の外をぼぉっと見つめている。
「調子はどうだ?」
病室に黒い隻腕のヒューキャストがやってくる。
「あら、今日もお見舞い?」
「いや、そんなわけではない。たまたま近くを通りかかっただけだ」
「うふふふふ。そうなんだ♪」
ここ一週間、毎日たまたまこの近くを通りかかるジャドを見ながら楽しそうにソフィが微笑む。
「ラグオルに不時着だそうだな・・・」
照れ隠しか、ジャドが違う話を振る。
「えぇ、あれだけの爆発ですもの・・・しかたないわ。全く、ペディの破壊履歴史上でも一番の大参事でしょうね。」
「くっくっく・・・全くな。」
楽しそうにジャドが顔に手を当てて笑う。
「ふふふ。博士ってば、どうやって責任とるつもりかしら?」
「さぁな?其れよりも、帰りが遅れたことに対して、どんな言い訳をする気か見物だな」
「本当ね。これだけ待たせてるのだもの。それなりの言い訳を考えてくるんじゃない?」
病室に、静かな笑い声が響く。作られた空は青く、今日の天気は快晴。
「そういえば、退院はいつだ?」
「いつでもオーケーよ。今日明日中には出られるわ。私のほうは大丈夫・・・なんだけど」
「だけど・・・何だ?」
ソフィがジャドの無くなった右腕に目を向ける。
「あぁ・・・これか。ケイに責任持って直させる。第一、こうフレームから損傷しちまうと普通には直せなくてな・・・」
「そうね、博士じゃなきゃ確かに無理だものね。不自由じゃない?」
「ふん・・・其の分、ケイに報復するから心配ない。今はむしろ其れが楽しみでな・・・くっくっく」
ジャドがちょっと怖い笑みを浮かべる。
はっきり言って危ない。
ソフィは引きつった笑顔を浮かべながら、少しづつ後ずさるのであった。
・・・
パイオニア2不時着の日。ラグオル地表。
パイオニア1の残された研究施設の一つに2つの人影がある。
薄暗い室内にはチューブやパイプ、コードが所狭しと這いまわり、怪しく発光する薬品や煙を噴く試験管が無造作に並べられている。
そんな中、書類と機材と薬品に埋もれながら、太ったレイマー風の男がマスクの裏で愉悦の笑みをこぼす。
「ぐふふふふふ・・・これをこうして、こうすれば・・・できましたぞぉ!」
「博士ぇ今度は何ですかぁ?」
トレーにお茶を載せて部屋に入ってきた蒼いレイキャシールが後ろから覗き込む。
「ふっふっふ。説明しよう! 之は其の名もトリップマテリアルです! 摂取すれば一定時間、夢うつつになり妄想の中で超パワーアップできる素晴らしき逸品なのです。依存性も在るので利益効果まで優れたパーフェクトなアイテムですぞ!!」
「博士ぇ・・・其れって犯罪じゃないんですかぁ?」
「だぁまらっしゃい!!」
青いレイキャシールにハリセンによる一撃がこぎ見よい音を立てて決まる。
「うぅ・・・いたいですぅ・・・」
「全ては、世界平和と私の幸福のためなのです。政府の圧力になど負けていられませんよ!!」
屋根にあいた穴から男が空を指差す。
「さぁ共に希望の明日を目指そうではないか!」
「はい、博士ぇ〜」
心酔しきった表情で青いレイキャシールは博士の指差す先を見つめるのであった。
と、其の視界に見慣れないものが写る。
「博士ー。あれはなんでしょぉか?」
「むぅどれです?私には見えませぬが・・・」
「ほら、あそこですー」
身を乗り出すレイキャシール
と、其の拍子に足元のコードに気づかずに引っかかる。
「あ・・・」
トリップマテリアルの貯蔵タンクに見事なダイヴを決めるレイキャシール。
刹那、世界は未曾有の閃光により白一色になる。
同時刻、パイオニア2操舵室。
「総督! ラグオル地表上で大規模爆発発生!!」
「なにぃ!?」
「規模は先の爆発の数倍! 余波来ます!!」
すさまじい衝撃がパイオニア2を襲う。
「被害は!?」
総督が椅子にしがみつきながら怒鳴る。
「報告します! 第3第6機関部大破! 外部装甲30%融解! 辛うじて都市部への被害はほとんどありませんが航行不可能! 地表に激突します!!」
「ナニー!!!」
空から煙を吹いて降ってくる超長距離宇宙船から逃げる、2つの人影。
「まぁたやってくれましたね!」
「そんなぁー。何でただのイケナイお薬があんな大爆発するんですかー!」
「イケナイお薬とは何ですかー! ・・・っと、いまわそんなこと言ってる場合では在りません! 逃げますよぉ!!」
青い青い本物の空のした、信じられないスピードで走り抜ける二人。
ラグオルの大地を震撼させて、パイオニア2は爆発により出来たクレーターに突き刺さり其の機能を停止した。
後の新聞記事によると奇跡的にもこの事故による死者は無し。但し、怪我人多数。建造物損壊無数。
経済的損害計測不能。
・・・
「ねぇ博士ぇ?」
「なんですかな?」
「一体どこまで逃げる気ですか?すむところも無くなっちゃいましたしー」
「そうですねぇ・・・昔の知り合いでも頼りましょうか。」
そう言うと、男はその場で立ち止まりパイオニア2へと振り向く。
「さぁ、そろそろ帰りましょう。たっぷりお説教されるでしょうけど仕方ないですね」
やれやれ、と両手を青空に向け男はパイオニア2に向け歩き出すのであった。
第一部、完
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皆様いかがでしたでしょうか?『第一部』最終話いかがでしたでしょう?・・・え、詐欺だ?
そ、そんなぁ・・・w
第二部をやる気かって?
そうですねぇ・・・正直迷ってます。
とりあえず決まっている事は、ver2がでるまでお休みをいただこうという事です。まぁ、其の前に番外編3で溜まりに溜まったアンチシリアスパワーをぶっちゃけちゃうかもしれませぬw
まぁ、予定は未定で御座いますので期待はしないでねんw
さて、今回ですが解釈は皆様にお任せいたします。自分的には書きたかったいろんなことを、気持ちよく、楽しく、ちょっぴり感傷に浸りながら書けたので大満足であります。
・・・はたから読んで面白いとは限りませぬがw
まぁ、其の辺はご感想から伺いましょう。今回はいつものよりもかなり強力に感想をお待ちしておりまする。レスは遅くなるかもしれませぬがみんな、みんな読んでます。何度も何度も読み返してます。
・・・それから、今夜もやります。
大好評(?)のはた迷惑企画!!
ペディちゃんとありがたい読者様の集い
時間は今晩0時より、場所は前回から変わりまして、9−8−6と致します。振るってご参加くださいませ。
皆様のレスと楽しいチャットをすっごく楽しみにしていますw
それではまたの機会に会いましょうw
<kei>