First step 1 ― Case of "Sora Evergreen" ―


視界を、闇と、光の泡が埋める。
自分自身が光の集合体になって、その中をまっしぐらに駆けていく感覚。
悪くはない。
ティンカーベル、という単語がふと意識をかすめた。
何だっけ………ああ、小妖精
(ピクシー)の名前。
遠くにより強い輝きが見える。
私はその光に引き寄せられる。吸い込まれる…………そして………

風が頬に当たる。自然の湿り気を含んだ空気。土のにおい。植物のにおい。
両足がやわらかい、生きた土を踏みしめている。
目を開ける。
青い空。噎せるような緑。美しい羽の、蝶に似た生き物が目の前をよぎった。
深呼吸をひとつ。ここが、ラグオルの大地。

私はソラという。人間の女性で魔法使い…「フォマール」というやつだ。
パイオニアでハンターとして修行している。ある事情で、強くならねばならないので。
………まさか、こんな事件に噛むことになるとは予想外だったけれど。
ここ数日、肩慣らしをかねてこの「森エリア1」と呼ばれる地帯の探索をしていたのだが、
今回はハンターズギルドから初めての仕事を受けての転送だ。
気合い、入れなくちゃ。
すぐ横を見ると、今回、即席のコンビをくむことになった背の高いヒューキャストが見慣れない大鎌を片手にたたずんでいる。
キリーク、という名前だと聞いた。高レベルのハンターで、かなりの有名人らしい。
初仕事の私と組まされる事にかなりの難色を示していたが、結局依頼人のたっての頼みが通ることになった。
私も、フォースの最も基本的な武器、「ケイン」という杖を握りしめ、手応えをたしかめる。
足手まといには、なりたくない。私にだって意地がある。
用意はいいか、と言いたげに、彼は私をちらりと見た。
うなずき返す。
「OK、では、行くか。」

あの謎の爆発の名残だろうか、あちこちにフォトン結晶の破片が青緑の光を撒いている小道を少し行くと、ちょっとした広場に出た。
「ブーマ」という茶色の獣が数匹、二足歩行でうろついている。
巨大な鈎爪を持っているが、性質は温厚……の筈なのに、こちらを見つけると必ず問答無用で襲いかかってくる。
紫色の疾風が走った。
キリーク。速い!
「来るぞ!敵に囲まれるな!」
言いながら鎌を振り回す。あっという間に、彼に向かってきたブーマたちが斬り伏せられる。
ほとんど一撃だ。彼が一度鎌を振るたびに、一体のブーマが倒れていくように見える。
私も見ているわけにはいかない。出遅れたが、全力で突っ走る。
今使える呪文は一度に一体だけ、しかも射程も短い。後ろにいては当たらない。
走りつつ意識を集中して、精神力をエネルギーに変える。
「フォイエ!」
発動した火の玉は、獣の毛皮を焦がした。倒れない。
まだ駄目か。
数発の火球を、押し寄せてくる獣たちに当ててやったが、奴らは目の前までやってきて、鈎爪を振り上げた。
やばい!
とっさに振り上げたケインで受け流したが、やりそこなって一発くらった。
目の前が暗くなり、私は地面に倒れた。とっさに転がって、残りの攻撃をかわす。
キリークが駆けてきて、キノコでも刈りとるようにブーマたちを倒し始めた。
私も飛び起きて、ケインを振り回す。
ほどなく、広場のブーマは全滅した。ちなみに撃墜マークはキリークの方が圧倒的に多かった。
キリークは強い。本当に強い。あの乱戦で、一発のダメージも受けていないようだ。
私がモノメイトで傷の手当てをする間、彼は黙って周囲を警戒していた。
足手まとい、かなあ、やっぱ。
私はちょっぴし落ち込んだ。

森を進む間、キリークはほとんど口を利かない。
ちょっと気まずい雰囲気を何とかしたいのだが、話しかけるきっかけがどうにもつかめない。
森の中は地形と、先発隊が建造した門でいくつかの小エリアに仕切られている。
依頼された人物の捜索には、これら全てを虱潰しにあたらなくてはならない。
あちこちの広場に出現する原住生物たちは、みんな死ぬまで戦いをやめない。
不自然だ。
普通、野生動物は、よほどの事がなければ死ぬまで戦いはしない。不利なら逃げる、それが習性のはずなのに。
「どうした?」
とつぜん、キリークが尋ねてきた。
「攻撃が当たらないのか?」
確かに。しかし、全く当たらないわけじゃない。ただ、ダメージが入りにくいだけだ。
「そんなこと、ないよ!」
つい、意地を張ってしまった。
「……そうか。それなら、いい。」
キリークは、それだけ言ってまた黙った。
私って、バカだ。

いくつめかの広場で、またブーマとの乱戦になった。というか、キリークが凄まじい早さでブーマの群に突っ込んでいった。
慌てて後を追う。そのとき、聞こえた。
「クハハハハッ!!」
正直、一瞬、ぎょっとした。キリークだ。笑っている。
手にした鎌でブーマを切り刻みながら、表情のない顔で、哄笑している。
ほんの一瞬、足がすくんだような気がした。
気を取り直して、私もフォイエを使いながらブーマを殴る。しかし、へまをした。
ケインを振り下ろした直後に、強烈に一撃くらってしまった。
体勢が崩れる。攻撃を受け流せない。集中がとぎれる。呪文が、使えない!
次の瞬間、凄まじい痛みとともに、視界が真っ赤に染まった……………

気が付くと、パイオニアのメディカルルームにいた。
看護婦さんの慰めを聞きつつ、ふと見るとキリークが影のようにたたずんでいる。
そのとき、私は何があったのかようやく理解した。
彼が助けてくれたのだ、ということを。
倒れた私を、ここまで連れてきてくれたのだ。
「あの……ありがとう。」
自然に言葉が出た。

これまでも友好的に接していたつもりだった。でも、どこかで気負っていたのかもしれない。
彼は小さく頷いた、ように見えた。
踵を返してメディカルルームを出ていくキリーク……キリーク先輩の広い背中を、私は素直に追いかけた。

探索再開だ。
幸い、未探索のエリアは後少し。
キリーク先輩は、戦闘の合間に言葉少なに戦い方のこつ…間合いの見極め方などをレクチャーしてくれる。
こんどこそ、へまはしない。
先輩がダメージを与えたエネミーに、効率的にフォイエを当てていくように心がける。
まだあまり思うようにいかないが、だいぶ楽にたたかえるようになった。
最初からこうすればよかったのだ。私はまだ弱い。無理に背伸びをしてはならないのだ。
そして、ようやく。
依頼人の尋ね人を無事に見つけだせた。

「もっともっと、強くなれ。」
別れ際、キリーク先輩は私に言った。
私が強くならねばならないことを、彼は知ってはいなかっただろう。
何かの暗合のように、彼は私に言い残して去っていった。
あれ以来、私は先輩に会っていない。
ときたま、噂を小耳にはさむ程度で、今どこで何をしているのか、私は知らない。
彼は……私が強くなりたい理由の一つである、私が助けたいある人にいくらか似ていたのだと、最近気づいた。
また、会えるだろうか。
あれから、私はずっと修行を続けている。
多くの人と出会い、助けられ、支えられ。たまにはこちらから力を貸して、ようやくここまで来ることができた。

キリーク先輩……
また、会えますよね。
あなたの前に、胸を張って立てる日が、来ますよね。
肩を並べて、今度こそ足手まといにならないように戦える日が。
わたしはもうすぐ、あの日のあなたに追いつくことができます。
そうしたら……

「強くなったな。」って、言ってくれますよね?
その日が来るのを、楽しみにしています。

〈Fin〉


あとがき

てなわけで、オフラインクエスト「戦いのいしずえ」から、ソラちゃんの冒険談を起こしてみました。ネタバレの危険がありますので、クエスト描写は抑えぎみ(^^;)
えーと、多少エピソードが前後したりしていますが、ソラちゃんの体験はほぼ実際のプレイをなぞっています。
キリークに意地をはってみたり、ブーマにKOされて病院送りになったら、律儀にキリークが病院でも彼女のそばに立っていたり。
(プレイヤーから見ればゲームシステムですが、キャラクター視点で解釈すれば、キリークはソラちゃんの恩人なわけで…)
しかしこんなエキセントリックなアンドロイドを真剣に尊敬していて大丈夫なのか、プレイヤーとしては多少不安だったりして^^;
最近、攻略サイトなどでキリーク先輩について多少芳しくない噂(?)を見かけたりして気がかりなプレイヤー(背後霊)だったりしますが、
ソラちゃんが彼に再会できるのはいつの日でしょうね。とりあえず、早くボルオプトを倒さねば。

ところで、本来PSO世界の人間ではないソラちゃんが、いかにしてパイオニアでハンターズのIDを得ることができたのかは、作者も知らなかったりして(おひ)。

追記:2月14日、ボルオプト撃破。キリークさんとレベルが並びました。更なる高みへと、頑張るソラちゃんです。


運命の出逢い(?)の図。


(C) SEGA / SONICTEAM, 2000.
このページで使用されている画像は(株)ソニックチームの許諾を得て、
ドリームキャスト用ゲーム「ファンタシースターオンライン」よりキャプチャーしたものです。
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