「そ……それで……だな」
呑ませた酒のまわる頃合いを見計らい、リアラはゆっくりと切り出した。
「ナイツ……」
何だかまともに顔が見られない。
自分も少し酔ったのか、やけに顔が熱く感じる。
「私は……その……」
隣の愛しい者の顔ではなく、手元のグラスを睨み付けるようにして言いかけたリアラの頬に、温かい指先が触れた。
「え?」
驚いたリアラの顎(おとがい)を軽く持ち上げるようにして、口元――頬と唇の端との微妙なあたりに触れる、温かくて柔らかいもの。
「…ん♪」
落っこちそうに見開いたリアラの眼に大写しで映る、瞼を伏せたナイツの貌。
ずささささささあっっっ!!
何が起こったのか認識したとたんに、リアラは座ったまま数メートルほど後じさり、背中が木の幹にぶち当たってようやく停まった。
「ナ…ナナ…ナナナイツ………っ…?」
一気にほろ酔いが冷め、心身共に真っ白になって目一杯眼をかっ開き、ナイツを見やる。
取り残されて草の上に膝をつき、とろんと焦点の合わない眼をして、ナイツはふらふらと上体を揺らしていた。
そんな“彼”の前を、一体のピアンが通りかかる。
ナイツはそのピアンの小さな身体を抱き上げた。
そのままほっぺたにくちづける。
「ん♪」
さらに通りかかったメピアンもひっつかみ、
「ん♪」
さらに今度は、ピアンを狙って降りてきたキルクルに手を伸ば………
げしあっ★!!
とっさに割り込んだリアラは片腕でナイツを遮り、キルクルに蹴りをたたき込んだ。
「貴様にだけわああッッ!!」(←本気)
『り……りあらサマ……何故』
「やかましいいっっ!!」
げしげしと哀れなサードレベルを地べたに踏みつけて黙らせる。
「ま……まさかキス上戸だったとは………」
額の汗を拭って、リアラはおそるおそるナイツに向き直った。
「……………」
ふらり。
ナイツは目を閉じて、大きく身体を揺らした。そのままリアラの腕の中に崩れ落ちてくる。
「うわわっっ!!」
ずるりと倒れ込むナイツの身体を支えようとして、リアラも足がもつれる。
「うわ…!」
大きく視界が回転した。
どさばさっ。
「痛(つぅ)………」
はっとして見ると、ナイツの身体を下敷きにするような体勢で二人は草の上に転がっていた。
「ナ…ナイツ?おい」
ナイツは完全に酔いつぶれ、すやすやと眠りこけている。片腕が、リアラの腕の手甲(ガントレット)に引っかかっていた。袖口がからみついたらしい。外さないと起きあがったときナイツを引きずってしまう。
リアラは袖口のもつれを解いて、上体を起こした。
瞬間―――背後から、ぞっとするような気配が突き刺さる。
そおっと振り向いて、リアラは固まった。
血の気の引いた顔をして、青筋たてて震えているクラリス・シンクレア。
ちょうどナイツを組み伏せているような体勢に見えていることに気づき、慌ててリアラはナイツから離れ………クラリスが爆発した。
「リアラ―――――っっっ!!ナイツに何をするのよっっっ!!」
「ご、誤解だッ!!これには事情(わけ)がっ……!」
「何が事情よおっ!!」
クラリスの身体がレッドイデアの発動で真紅に輝く。
「ひどいわ!ナイツ、意識がないじゃないのおおっっ!!」
ぱげしゃあああっっっ!!!!
クラリスのレッドイデアが、リアラを直撃した。
「ぐはあっっっ!!」
一方、ナイツは大騒ぎをよそに、平和にすやすやと眠りこけていた。
数日後のナイトメア。
「う〜〜〜〜ん、う〜〜〜〜ん」
包帯ぐるぐる巻きのリアラ(絵本だとリアラは発動した『赤い光』に触れられません)がベッドの上でうなり続けていた。
「リアラ様………」
額に汗して、ジャックルはリアラを見下ろす。
「つ…つ…次こそは………ナイツ〜〜〜っっ!」
「………変だなぁ……どうもこないだの記憶がないんだよなぁ」
ナイトピアで、首を傾げるナイツであった。
〈Fin〉
あとがき 〜最凶最悪の初恋〜
えー、てなわけで冒頭漫才のルーツ(?)になった無責任番外編の第1話でした
(シリーズ化するかこんなもん←わたくし)。
リメイクしてみて思ったけれど、つくづく身も蓋もないですなぁ。
もともとは寝不足ハイかなんかでP3あたりまでらくがきしたのが事の発端だったんですが、なんか友達にウケちゃって。
(後半は風邪引いて微熱があったんだ、確か)
真面目な話、リアラもナイツもお互いの存在がどんな形であれ必要なんだ、というのは皆様共通意見と思うのですが、悪ノリして妙な方向に膨らませたのがこれデス。ナイトメアンって性格とぱっと見に男性的・女性的ッてのはあっても、人間のような意味での性別ないと思ってますし(『意識体』だしね)。
当初は
《ナイツに負けて、『自分の半欠け』からきちんと『一個の人(?)格』として認識を改める必要に迫られ、混乱しているところにヘンな事を言われて起こる騒動》
の筈だったのですが、なんだかウケて続きを描いていたら
《カン違いから始まって、いつか真実の愛に至る恋》
へと設定がシフトしてしまいました。
でも基本コンセプトである
《想いの暴走に振り回されて、はたから見たら笑うしかないひどい目に遭うリアラさま》
はそのままですので、かなりコワレた展開が待っております(外道)。
ついでに『健全なオチのつく話をいかにアヤシいノリで描写するか』という隠れテーマが(殴)
客観的に見て、下心ありならかなりオイシイ思い(おい)をしているはずですが……自爆しまくり。
リアラさまの性格を一応純情寄り(そうか?)に設定してあるせいか、幸せには見えませんなぁ。
一応FENのめざす場所はまともな意味でも全ての意味でも(待てやコラ)二人の幸せな未来なんですが、結局
『すちゃらか純情凶悪らぶこめ』……(ひでぇなぁ)。
まあこれらすべて、リアラさまの『幸せに至る為の試練』ということで。
ご希望なら今後の展開も再録させていただきますが…(いいのかな)。
ご感想お待ちしております。
ところで気がつきましたか?
この話の時点で、ナイツはもうリアラに対して怒っていない、ってこと。
H.11.10.14.付 FEN.