続・戦いの礎 PART-1


 とりあえず、キリーク様ご本人及びファンの皆様ごめんなさいm(_ _)m 
 一応これも先輩への愛ということで………(殴)      By 作者




 DFは倒れた。
 あまたの勇者達の健闘の末、寄り代とされていた『赤い輪のリコ』も救出され、パイオニア2はあの爆発以来初めての明るいニュースに沸き立っていた。
 しかしながら、一度復活を遂げ、パイオニア1の人員を糧として進化した闇の思念体は、単純に倒しただけで消滅するとは思えない、というのが科学者達の意見でもあった。
 事態は予断を許さない。
 原生生物の凶暴化も未だ完全には沈静しておらず、地下の変異生物や遺跡の亜生命体の駆逐も、坑道の機能暴走も解決されていないのが現状だ。
 DFに由来する異常フォトン……
 いや、実際にはこれこそが闇の思念体の本質であり、DFはその密度が高い場所に出現する『現象』なのだとする意見もある。
 少数派だが。



 ある日のハンターズギルドロビー。
 エネミー駆逐にむかうグループやパイオニア2市民の依頼を受けるために集う様々なハンターズでごった返す中に、一人黙然とたたずむ男がいた。
「………遅い。何をしているのだ、あいつは。」
 トップハンターとして名高きヒューキャスト、キリーク。
 ラグオルの災禍のさなか、一時消息を絶っていたと言われる彼も、リコの生還と前後して復帰し、多忙な日々を過ごしていた。
 誰を待つのか、苛立たしげに紫紺の長身を壁に預け、つま先がこつこつと床をたたいている。
 あと5分待って来なかったら依頼をキャンセルして帰る事を真剣に検討し始めた時、エントランスの方がにわかに騒がしくなった。
「わあ、これがハンターズギルドかあ。」
「こっちこっち!」
「あー、ずるい、僕が先だよぉ!」
 無邪気な声と共にわらわらと駆け込んできたものたちに一旦エントランス中の眼が集中し、ついでその全てがキリークに向けられる。
「………………」
 AIが目前の情報を処理することを拒否して半ばフリーズしかけた彼に、現実は予想され得る最凶最悪の展開を突きつけてきた。
「あー、いた!」
「ぱぱだあ!」
「わああい、ぱぱー!!」
「あー、ずるい、僕が先だよぉ!」
 駆け込んできたもの―――――彼そっくりの三体の小さなヒューキャストたちは、棒立ちになったキリークのもとに先を争ってわらわらと群がり寄ってきたのだ。
「ぱぱ、あいたかったの。」
「………………」
「わーい、ぱぱだあ。」
「………………」
「うれしいな、うれしいな、ぱぱにやっとあえたんだあ。」
「………………。
 いい加減にしろ、ジャンカルロ・モンタギュー!!こいつは何の酔狂だ!?」
 唐突にフリーズから復帰し、肩と胴中にしがみついた彼の縮小版をもぎはなしつつ(脚にもう一人くっついてるが、とりあえず無視する)、キリークはにやにや笑いながらロビーに入ってきた一人のニューマンに向かって吼えた。



「やあ、キリーク。その後どうだい?調子はよさそうだね?」
 ジャンカルロ・モンタギュー………パイオニア2、いや当代きっての天才科学者(キリークの感慨としてはむしろ天災科学者だ)は、相変わらずご機嫌に、人生そのものを思い切り楽しんでいるような笑いで話しかけてきた。
「………………おかげさまでな。」
 顔にこそ出ないが、苦虫百匹噛みつぶしたような苦渋に満ちた口調で返事をするキリーク。
 正直にいって苦手なタイプのこのニューマンの科学者だが、今のキリークにとってはほとんど後見人のようなものだ。人付き合いが苦手な彼としても、邪険に扱うことはできない。
 DFの精神侵略に屈して遺跡で倒れた彼を回収し、秘密裏に修復。
 ブラックペーパーがほぼ壊滅して後ろ盾を失った彼のメンテナンスその他を引き受けてくれ、さらにハンターズ復帰にもあれこれ力になってもらった借りもある。
 頭を抱えたくなることも少なくないが、キリークのことを本気で気に入ってくれていることは間違いないのだ。
 それが幸福か不幸かは別として。
「で…………こりゃいったい何の冗談だ?」
 猫の子みたいに、ぶら下げたちびヒューキャストを科学者の目前に突きつける。
「もちろん、僕が作った。かわいいだろう?自信作だよ。」
 うっふっふ、といつもの笑みを崩さないモンタギュー。
「君を修復したとき、必要に迫られて構造を調べさせてもらっただろ?隅々までね。」
『隅々』のところにやけに力を込めて言いながらさらににやりと笑う。
「それこそ全身くまなく、なめるよーに丁寧に…………」
「やめんか、誤解を招くわ。」
 周囲がひくのを横目で見ながら、寒気を感じつつツッコむキリーク。
「で、まあ、そのときのデータを何かに生かせないかと思ってね。
 データ提供が君で、制作が僕。
 さしづめ、僕と君のコドモってとこか?」
「またんかああああああああああああ!!」←魂の叫び

 キリークはそのとき、あのまま遺跡で消滅するのとこの科学者との縁と、どちらの運命がましだったか本気と書いてマジで考えていた。



「ぱぱ、ぱぱ、どーしたの?」
 いつの間にか頭を抱えてうずくまっていたらしい。
 視界を開くと、ちびたちがぢーっとキリークそっくりの顔で見上げている。
「…………この『ぱぱ』はどーにかならんのか、モンタギュー。」
「いやあ、プログラムのデフォルトにそう設定しちゃったからねえ。」
 悪びれた様子もなく笑うモンタギュー。脱力するキリーク。
「はかせ、ぱぱはどうしたの?ぼくらに会えて、うれしくないの?」
 一人が心配そうにモンタギューを見やる。
「いやいや。パパは照れ屋さんなだけだよ、大丈夫。」
「勝手に決めるな…………」
 喚く気にもなれず、げんなり呻くキリーク。
 ぺたぺたとちびっこたちになつかれつつ、一つの疑問を口にする。
「こいつら、規格サイズより随分と小さいようだが?」
 一般的なヒューキャストの規格は、最小でヒューマーの標準体格より頭半分ほど小さい程度だ。
 キリークにまとわりつく三体のヒューキャストは、どう見ても人間の6〜7才程度の体格しかない。
「もちろん、僕独自の製作だからね。僕の趣味優先に決まってるだろう?」
 あっさり応えるモンタギュー。
「趣味かオイ」
 彼が最高傑作と呼んで憚らないレイキャシール、エルノア・カミュエルの仕様といい、ハンターたちに持ち込ませたエネミーの体組織を武器加工して使わせるなどの奇行といい………。
 ここまでおのれの趣味を優先して、それが通ってしまう所に一抹の不安を覚えるキリークだった。
「おまちどおさまでしたあ。」
 考えたとたんに、当のエルノアが、なにやら両腕に抱えてやってくる。
「あ、エルおねーちゃんだぁ。」
「おねーちゃーん。」
「わーい。」
 ちびたちがわらわら、今度はピンクのレイキャシールにまとわりつく。
 そんな彼らに、エルノアはおっとりした態度ながらてきぱきと、モノメイトなどのパックやセイバー、初期状態のマグなどを装備させていく。
「…………ちょっと待て。」
 ひしひしと嫌な予感がして、キリークはモンタギューに向き直った。
「お前の依頼てのはもしかして…………。」
「うん、この子たちの初期訓練を頼もうと思ってね。ハンターズ登録は済んでるから。」
「自分で育てんかああああ!!」
「僕はフォースで武器工、おまけにハンターズ登録してないんだよ?
 エルはレンジャーだし、教官向きの性格じゃない。
 君が以前、一人の新米に立派にハンターズの基礎を叩き込んだ話は聞いてるよ。
 というわけで、よろしく頼む(ぽむ)。」
 肩を叩かれつつ、キリークは依頼キャンセルするのを5分待つことにした自分の決断を心底悔いた。



 小学生並みの体格のヒューキャスト三人が、マグとセイバー抱えて目の前に並んでいる光景に、改めてAIが拒否反応を出しそうになる。
 キリークは、昔、まだ組織で生まれたてのヒューキャストとして教育を受けていた頃、一般常識の一環として見せられた百科事典ディスクを思い出していた。
(カルガモの行列ってのがあったっけなあ、そういえば…………)
「まじめな話だがね、キリーク。」
 唐突にモンタギューが、めったに見られない真顔で口を切った。
「我々は新たな大地を手に入れた。これから、ここで生きていく。
 確かにまだまだ、危機が去った訳じゃない。
 原生動物たちのなかから、DFの影響で遺伝子レベルで変容し、凶暴化したものを完全に排除することは不可能だろう。
 地下の変異体どもは、既に独自の生態系を作ってしまっているし、繁殖速度が速すぎて、これも絶滅は不可能だと思う。
 坑道エリアのシステム復旧は、狂ったメカたちの妨害を排除しつつの作業だ、何年かかることか。
 遺跡ではいまだどこかの空間のゆがみか何かから、亜生命体たちがやってくる。
 それでも…………だ。
 戦いは、いずれにせよ終わらぬまでも少なくなっていく、これは確実だ。
 そしたら、君のような、戦うために生まれた者はどうする?
 新しい生き方を考え始める時期だと思うよ、僕は。
 基礎プログラムは人格プログラムにも影響するから、簡単に変更することはできない。
 この子たちはね、その模索の一つなんだ。
 戦いに身をおける能力と意思、そして穏やかな日常に適応できる心………
 それらを育てるアルゴリズムを確立したい。
 あえて不完全な、子供を模した学習発展型プログラムはその為さ。
 この件について、僕としては君におおいに期待しているんだよ。」
「…………承知した。」
 言いたいことの若干がなくもないのだが、キリークはあえてそう答えた。
「はかせ、ぱぱと何むづかしいお話してるの?」
 ちびの一人が首を傾げる。
「ん?うん、君たちの将来が楽しみだ、ってお話だよ。
 さあ、パパがこれから君たちに、いろんな事を教えてくれるからね。」
「わーい!ぱぱとおでかけだあ!」
 ぴょんぴょんはね回って周囲の注目を集めまくるちびたち。
「…………ところで、こいつらの名前をまだ聞いていないのだが。」
「ああ、じつはまだないんだよ。ちなみに開発コードはLK-01、02、03だ。」
 Little-Kireek だな、と言葉に出さずに思うキリーク、これはまあ予想範囲だ。
 よく見ると、キリークそっくりの装甲パーツの肩部分に01、02、03の刻印、更に要所要所にアクセントのように色の違うパーツが使われていて、見分けがつくようになっている。
「名前がないと不便だしねえ、どうだい、カリーク、クリーク、ケリークってのは?」
「却下。」
「じゃ、ぱぱとして何かいい名前をあげてくれたまえ。期待してるよ。」
 にこやかにいわれて、嵌められたと気づいた。
「とりあえずチビ1、2、3
(ワン、ツー、スリー)と呼ぶ。まともな名前はお前が考えろ。」
 言い捨てて、キリークはチビたちに来いと身振りでうながす。
「ああ、これを持っていってくれよ?」
 モンタギューは〈BEE〉システムの通信機を彼に手渡した。
「逐一報告を頼む。」
 受け取って無言で転送機に向かうキリーク。その後ろを注目を集めつつわらわらついていくチビたちを、ニューマンの科学者は微笑みながら見送った。

「博士、あの通信機って、昨日改造なさってたものですよねえ?」
 エルノアの問いに、モンタギューはうっふっふ、とほくそ笑む。
「あのキリークの育児(?)記録だよ。リアルタイムで聴かない手はないだろう?」


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