続・戦いの礎 PART-2


 モンタギューの陰謀(笑)にはまってお子さまヒューキャスト三体の子守を押しつけられたキリーク。
 連絡用〈BEE〉システムが常に彼らの動向を送信し続けると知らないままラグオルに向かうキリークの運命やいかに?



 パイオニア2からの転送装置に、大小四つの人影が現れる。
「わあー………」
 呆然と周囲の木々や青い空を見上げる小さなアンドロイドたち。
「これが……おほしさまの上なの!?」
 キリークが頷くと、チビたちはさっきまでのにぎやかさはどこへやら、お互いにくっつきあうようにしてきょときょと周囲を見回し始めた。
 キリークは当然、子供たちの当惑など歯牙にもかけず、転送エリアから足を踏み出す。
 その様子を見ていたチビたちもおずおずと、初めての大地の上に足をおろした。
「……………。うわああああい!!」
 とたんに、ポップコーンが弾けるように、そこらじゅうに散らばって興味をひくものに飛びついていく。
「ねえねえ、お水がながれてるよお?」 
「ねえぱぱ、あれ何?」
「こっちにも変なモノがあるー。」
 小川に足を突っ込み、チョウチョをおいかけ、発光キノコを引っ張ってみたり。
「こらこらこらこら!」
 おとなしいのは一瞬か、とうんざりしつつ、キリークはとりあえず胞子まみれになったチビ3を、大きな発光キノコの群落からひっぺがす。
「チビ1、蝶をセイバーで追い回すんじゃない!チビ2、小川をどこまで辿る気だ?戻れ!」
 光るきなこ餅みたいになったチビ3から胞子をたたき落としてやりつつ、キリークは戻ってきた二人を見やる。
「おまえら、地上のデータはもらってないのか?」
 三人揃って首を振る。
「はかせがね、おりてからのおたのしみだ、って、おしえてくれなかったの。」
「あの男………」
 ほぼ予想通りとはいえ、思わず頭の痛いキリークだった。
「とりあえず、携帯端末をチェックしろ。セイバーとモノメイトの確認。周囲に常に気を配れ。基本だ。」
 頷いて、三人は改めて持ち物を確認し始める。
「けいたいたんまつ、よーし。」
「セイバー、よーし。」
「おべんとう、よーし。」
「モノメイトだッ!!」
 ツッコむキリーク。
「あ、オイルのすいとう、わすれた。」
「遠足じゃなああああいっ!!」

 わりとありがちな展開であった。



「ラグオル地表、森第1エリア、標準時10-15。無事転送完了。
 これより、訓練を行いつつ、セントラルドームまで遠征する。オーバー。」
 大騒ぎがまんま実況されているとも知らず、簡略な報告をすませてキリークはチビたちに向き直る。
「いいか、現在、地上の生物の中には、DF……要するにバケモンのせいでおかしくなった奴が混ざってる。
 こっちを見たとたんに襲いかかって来る奴がいたら、迷わず…………
 って、こら、ミウォンタイトなんぞ拾ってるんじゃない。」
 彼が通信している間に小川の中の光る小石集め競争を始めたチビたちをつまみ出す。
「いいか、襲いかかってくる原生生物は、かまわんからぶった斬れ。
 躊躇してると、死ぬのは自分だぞ。わかったな?行くぞ!」
 自分のペースでさくさく行かないと、エリア1の途中で日が暮れる、と判断したキリークは、それだけ言うとソウルイーター片手に小道を進みはじめ………られなかった。
「わああ、かあぁっこいい!」
 チビ1が歓声を上げる。
「ぱぱ、みせてえ。すっごいや!」
 言うなり、鎌の石突きをひっつかむ。
「のわあっ!!」
 ずる、と鎌が下に引き抜かれそうになり、さすがに肝を冷やすキリーク。
「ば、馬鹿者〜〜〜〜!!」

 前途は多難であった。



「やああっ!」
 かわいい掛け声と不釣り合いに、爪を振り下ろしたブーマにセイバーの緑のフォトン刃が斬りかかる。
「えいやっ!」
 ざんっ、と毛皮を切り裂く音、獣の悲鳴。
「わああんっ!」
 ぎいん、と武器がはじかれる音。
「もういい、退がってろ!」
 キリークは叫んで、ソウルイーターを横薙ぎに振るう。
 真紅の鎌は、赤い軌跡を引いて、三匹のブーマをまとめてなぎ払った。
 それでこの広場の敵は一掃されたらしく、静けさが戻る。
「………おまえら、思っていたよりやるじゃないか。」
 少々意表をつかれる思いで、キリークはチビたちを見る。
(まあ、考えてみりゃ、こいつらは俺のデータから造られた連中だ。このくらいはできて当然、てな所か。)
 妙に嬉しくなってきて、キリークは顔にこそ出ないがほくそ笑み………ついで、自身の感情にとまどった。
 強くなれると見込んだ相手に巡り会う高揚感とはまた違った、不思議な喜び。
(俺は………??)
「ぱぱ、どうしたの?」
 セイバーを起動させたまま、チビ1が不思議そうにキリークを見つめる。
「い………いや、なんでもない!」
 チビ2とチビ3が、壊れたコンテナから散乱した中身をあれこれ拾ってきた。
 三人でわいわいと分けっこを始めたのを機に、キリークは定期連絡をすることにした。
「………ラグオル地表、森第1エリア、標準時10-45。
 実戦体験を行う。予想よりも優れた水準の成績。なお、LK-01にやや好戦的傾向を認める。
 03には若干の追加訓練が必要かもしれん。オーバー。」
 通信機をしまって、キリークは背後で騒いでいるチビたちを怒鳴りつけた。
「おまえら、拾ったセイバーの取り合いで喧嘩するんじゃないっ!」



「ぱぱ。チビ2がいないよ?」
「な・に・いいいいいいい!?」
 チビ3の言葉に背後を見やって、思わず頭の痛いキリーク。
 第2エリアへの転送機にほど近い、見通しの悪い小道。
 しばらく来た道を見やってみたが、あの小さな姿は現れない。
「………迷いやがったな。しかたない、おまえら、ここで待て。俺が見てくる。
 いいか、絶対に、ここを動くなよ!」
 1と3から目を離すのもやりたくはないが、厳重に釘をさして、キリークはもと来た方向に戻った。
 携帯端末のマップを最大範囲表示にし、スクロールさせて居場所をさがす。
「………いた、これだ。」
 位置と向かっている方向を見て、キリークは呻いた。
「やむをえん。」
 彼は道を無視して、密集した藪の中に強引につっこんだ。

 話は若干遡る。
 キリークのあとをまさしくカルガモの雛のごとくついていく途中、チビ2は一羽の蝶に眼を奪われた。
 星空を切り取ったように輝く、大きな美しい蝶。
 ついふらふらとそっちに引き寄せられて、彼はいつか細い脇道に踏み込んでいた。
 気づかないまま少し進むうちに、蝶は道を外れた藪に入っていく。
 おいかけたチビ2は、いきなしブーマと顔つきあわせていた。巣に転げ込んでしまったらしい。
「………………。」←チビ
「………………。」←ブーマ
 一瞬の沈黙。次の瞬間、ブーマの咆哮を背に、チビ2は脱兎のごとく駆けだしていた。
 必死で走る背後から、ブーマが藪をかき分けて追ってくる。
「うわああああああんん!ぱぱ、たすけてえええええええ!!」
 こけつまろびつ逃げる目の前で、藪が切れた。ついでに足下もなくなる。
「わあああああ!?」
 ごろごろどってん。
「おわあっっ!?」
「な、なんだおまえ?」
 人の声に目を上げると、知らない人間たちがいた。どこかの広場に転がり出たらしい。
 背後のブーマはどうやらまいたようだが、そのときやっとチビ2はみんなとはぐれたことに気づいた。
「あ………………。」
「変わったアンドロイドだなあ。ヒューキャみてえだけど…………ちっちぇえの!」
「おまえ、仲間とかは?」
 口々に聞いてくる、二人のハンターズ。
「え、えと、あの、僕、はぐれちゃったみたい…………。」
「携帯マップみてみろよ。」
 片方のレイマーに言われて、マップを表示するチビ2。
「えっと、これが僕、これがおにーちゃんたちだから……あ……み……みんながうつらないよお…………どうしよう…………。」
 おろおろと言うチビ2に、ヒューマーが不思議そうな顔をする。
「お前、最大範囲表示やスクロールの…………ん?」
 言いかけてレイマーにつつかれ、目配せされて、何かに気がつき意味深に笑う。
「おい、おちびさん。よかったら俺たちとこないか?パイオニアに帰ってまってりゃ、じき仲間も帰ってくるだろ。
 つれてってやるからさ。どうだい?」
 猫なで声で言われて、戸惑うチビ2。
「え…………でも、だけど…………。」
「そーそー、俺たちとくりゃ、いいモノもあげるぜ?な、来いよ。決まりだ!」
 勝手に決めて、強引にチビ2の腕を掴むレイマー。
「…………で、連れて行って密売ルートにでも売り飛ばす気か?」
 険しい声は彼らの背後からした。
 驚いて振り向いた二人のハンターズが、恐怖の叫びを上げる。
 全身折れた小枝や葉っぱにまみれ、イーター構えたキリークが殺気もあらわにそこに仁王立ちしていた。
「…………ぱぱ!」
「ソウルイーター………や、やべえ、キリークだ、こいつ!!」
「ぱ…………パパだってえええ!?」
「このガキは俺の連れだ。失せろ。」
 聞き返しもせずに、慌てて逃げ去るチンピラたち。キリークは彼らが消えると、無言でチビ2を見た。
「ぱ…………ぱぱ、おこってる?」
「……………………。」
「ご、ごめんなさあああい!」
「…………もういい。戻るぞ、二人を待たせたままだ。」
 キリークはそれだけ言うと、チビ2の手を掴んで歩き出した。



 無言のまま小道を早足で辿るキリークと、手を引かれるチビ2。
(ぱぱ、おこってる…………どうしよう、きらわれちゃったらどうしよう?)
 博士の研究所で二人の兄弟とともに目覚めた日、自分たちを作成するためのデータ提供者…………
いわば『父』の存在を聞かされて、いつか会わせてくれるという博士の言葉に胸躍らせた記憶。
(やっとあえたのに。もうあってくれないっていわれちゃったら、僕のせいだよな、やっぱし。)
 どんどん鬱に落ち込むチビ2。
「…………クソッ、やばい!急ぐぞチビ!」
「えっ!?」
 キリークは突然、チビ2をひっかかえて全力疾走しはじめた。
「??????」
 わけがわからず混乱するチビ2のセンサーにも、獣のうなり声とよく知っている声が聞こえた。
「チビ1!!」
 気づいたとたんに地面に投げ出される。
 起きあがったチビ2がみたものは、ウルフの群れにつっこむキリークと、半泣きになりながらセイバーを振り回すチビ1、
そして地面にぐったりと倒れ伏したチビ3のすがただった。


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