『捜し物は何ですか?』PART-1


 「このお部屋ですの。」
 エルノアは、モンタギューのラボの、居住区の一室にアッシュを案内しながら言った。
「随分静かだな?」
 アッシュは首を傾げつつ、扉の開閉スイッチを押す。
 ドアが開いたとたん、彼の眼に映ったものは、ソウルイーター片手にデルセイバーよろしく飛びかかってくるキリークの姿だった。
「っっ・ぎゃあああああああああああ!!!!」
 甦る遺跡での恐怖。
 アッシュは記録的速度で廊下を転がり退って、顔を引きつらせて突き当たりの壁にへばりついた。
 ばくばくと内側から肋骨を叩く心臓の音が頭蓋内にまで響くのを感じつつ、酸欠金魚みたいにあえぐアッシュ。
「あれ?………いまのおにーちゃん、誰?」
「もしかして、シンニューシャ(侵入者)かも?」
「わー、シンニューシャ、シンニューシャぁ!!」←わかってない
 どこかで子供が騒いでいる。
 視界の中で、やけにちっちゃなキリークが三人ほどぐるぐる駆け回る幻覚(違)を見つつ、ずりずりとアッシュは床にへたり込む。
「お父様のお友達のアッシュさんですよお。だめですよ、お客様を驚かせては。」
「あやや。ごめんなさあい。」
 アッシュの目前にきて、ぺこと頭を下げるちびキリーク三人。
「………え?あら?アッシュさん?アッシュさん!?」
 エルノアの声を遠くに聞きつつ、既にアッシュの意識は遙かな故郷の星へと飛んでいた。
 
 
「こんにちわ。僕、イーニィっていいます。はぢめまして。」
 ソウルイーターと見間違えた、体格相応に短い鎌(よく見るとフォトン刃がついていない)を両手で水平に握りしめ、改めてお辞儀をするキリークもどきその一、イーニィ。
 エルノアの『お父様のお友達』というあたりに若干言いたいことがないでもないが、とりあえずアッシュはぎこちなく笑う。
「ああ、よろしく………」
「あと、この子たちはミーニィとマイニィですの。よろしくお願いしますの、アッシュさん。」
 イーニィの背後でいっしょにお辞儀しているあと二人にも、アッシュはなんとか笑みをかえした。
「モンタギュー博士が造ってやった、ってわけ?」
 アッシュの問いに頷くエルノア。
「新しい成長型AIの試験機体でもあるんですの。成長データの収集や微調整が必要ですので、普段はここで暮らしてるんですぅ。」
 なにも三つ子にしなくても、と思いつつ、同時にあのひとならやるわなあ、と納得する。
「当初は1ダース作成するっておっしゃってたんですが、助手のシモンズさんに止められまして。」
「そりゃ止めるわ(汗)」
 ちっちゃなキリーク12人がラボを駆けめぐる光景を想像して、もいちど目眩を感じるアッシュ。
「エルおねーちゃん、ぱぱは来られなかったの?」
 ちびっ子のひとり(おそらくマイニィだろう)がレイキャシールの腕を引く。
「ごめんなさい、お父様はULTエリアの探索依頼でお出かけでしたの。
 ええと、多分今夜半か、明朝帰還予定だそうですの。」
「うー………」
 哀れなほどがっかりと、三人はうなだれた。
「でも、それで代わりにアッシュさんがおいでになってくださったんですよ?
 今日一日、みなさんと遊んでくださるそうですの。」
「ほんとっ!?」
 キリークそっくりの顔三つに一斉にみつめられて、たじろぐアッシュ。
「あ、ああ。よろしくな………あはは(汗笑)」
 なんとなく墓穴を掘った気分で、アッシュは引きつった笑いを浮かべた。


「えーい、やっ!」
「ととっ!」
 イーニィの打ち込んでくるソウルイーター(模型)を、訓練用の模擬セイバーで受け止める。
「なあるほど………確かにあいつの『子供』ってだけのことはあるなあ。三人とも、太刀筋、似てるぜ。」
「ほんと!?わああい!」
 モンタギューの私邸を兼ねたラボの『中庭』は、わざわざ土を敷き、植物が植えられた、贅沢な作りになっている。
 その芝生に腰を下ろしつつのアッシュの言葉に、小さな鎌を振り回しつつ(危ない)、ぐるぐるはしゃぐイーニィ。
 照れくさそうに、ミーニィとマイニィ(やっと見分けがつくようになった)ももぢもぢしている。
 ちょっと他では見られない光景だ。 
「ねえねえ、あしゅにーちゃん。これ、ミーニィが作ったんだ。」
 揃ってアッシュになついてきながら、よく見せようと言う気づもりか、彼の鼻先に刃のない武器を突きつけてくる。
「ミーニィはこういうのが得意なの。よくできてるでしょ?」
「あ、ああ、うん(汗)。」
 どうしても嫌な記憶が拭いきれないアッシュだったりする。
「まだ無理なんだけど、いつかぱぱのを振らせてもらえたらいいなー。」
 憧れをこめた口調でどこか遠くを見るイーニィ。
「………お前ら、ほんとに『ぱぱ』が好きなんだなあ………?」
『うんッ!!』
 アッシュのやや嘆息混じりの感慨に、揃って首を縦に振る三人。
「……そういや、ラグオルの生き物ってのは、カラスが光り物集めるみたいに何故かモノを集める習性があるんだけどさ。
 この『本物』……HARDエリアに出るヒルデブルーがたまに持ってるって聞いたことがあるぜ。」
「ほんと!?」
 アッシュの話にイーニィが勢い込む。
「へえ〜。それに青いごりらさんかあ。みてみたいなー。」
 ミーニィも身を乗り出してくる。
「おまえらレベルは?」
「7!」
 えっへん、と胸を張るふたり。こめかみを揉むアッシュ。
「あのね、ぱぱやエルおねーちゃんがね、ときどきラグオルにつれてってくれるから。
 あしでまとい、ならないとおもうけど、だめ?」
 マイニィがいくらかおずおずと切り出す。
「あしでまといっつーより前に、Hエリアへの公式転送許可は20からだっての。」
 アッシュの言葉にしょぼんとする三つ子たち。
「まあ、お前らの親父さんの口癖じゃないけどさ。『もっともっと、強くなれ』ってやつだな。
 なんだったらこれから、洞窟でもいってみるか?」
「つれてってくれるの!?」
 期待に満ちてアッシュを見上げる三人。
「いいぜ。お前らの背中は任せとけ。」
 有名な(?)決めぜりふと共に立ちあがるアッシュ。そのポケットから、何かが芝生の上に転がった。
「コレ何?」
 つまみ上げたミーニィが首を傾げる。
「知らないのか?総督府主催のシミュレーターの景品さ。」
 言いながら、アッシュは受け取った銀色のバッジをポケットにしまう。
「数貯めると、珍しくて強い武器に交換できるんだぜ。さあ、それより、出かける支度してこいよ。」



「シフタ!デバンド!」
 アッシュの掛け声と共に、不思議な輝きが一行を包み込む。
「うわあぁ………?」
 驚いてお互いを見やるヒューキャスト三兄弟。
「テクニックは初めてか?そっか、人間と組んだ事ないんだな?」
 頷く三人。
「こいつは一時的な攻撃力と防御力の増幅効果があるんだ。逆テクニックがジェルン、ザルア。
 あとは攻撃系と、各種薬品類相当の効果がある回復テクがある。
 さて、行こうぜ!」
 アッシュは愛用の両剣を起動した。真っ青なフォトンの刃が、地熱に熱せられた空気を裂く。
「わああ。かっこいい〜!」
 イーニィの眼差しにちょっぴし優越感を覚えつつ、アッシュは最初の『部屋』に踏み込んだ。



 エビルシャークとパルシャークの混成群が、鎌状の腕をかざして雄叫びを上げる。
「ジェルン、ザルア!」
 真っ先に駆け込んだアッシュがテクニックを放つ。
「いいぜ、チビども!行け!」
「わあああっ!」
 手に手にダガー、ソード、ハンドガンなどを構えて駆け出す子供達。
 アッシュはギバータで残りのエネミーを足止めしつつ、ツインブランドで斬りつけていく。
 やがて陸棲の『鮫』達は、殆ど反撃の暇もなく緑色の血だまりに沈んだ。
「ふー。」
 ハンドガン片手のマイニィが緊張を解いて、かくこともない額の汗を拭くような仕草をする。
「油断するな!まだ敵が残ってるぞ!」
「えっ!?」
 アッシュの警告がおわらないうちに、マイニィの背後に何かが現れる。
 がぎいん!
「きゃああ!!」
 つんのめる小さな身体。
「うおおっ!!」
 とっさにアッシュはつっこんで、マイニィをつつき倒したポイゾナスリリーに両剣の六連撃を叩き込んだ。

「大丈夫か?」
 レスタをかけながら問うアッシュに、こっくり頷くマイニィ。
「ありがと、あっしゅおにーちゃん。」
「すごかったなー、今の!」
 駆け寄ってきたイーニィ、ミーニィはアッシュをじーっと見つめる。
「あっしゅにーちゃんって、強いんだねー!」
「まほーもつかえるし、ねー。」
「うん、すごい!」
「………おいおい、俺くらいのレベルのハンターならコレぐらいは当たり前だって………」
「おにーちゃん、かっこいい。」
 背後にきらきらと
『尊敬』の文字をしょって、ぢーとみつめる六つの瞳(アイセンサー)
「は、はは、よせやい、照れるじゃないか。」
(ぢー。)
「いや、だからさ、たいしたことじゃないんだってば。」
(ぢー。)
「いや、だからさ。」
(ぢー。)
「は、はは、は………………よおおし!さくさく行くぞお!俺についてこい、チビ共!!」
『おー!』
 アッシュの雄叫びに、ちびっこ達三人のときの声が唱和した。



 その日夕刻。
 予定より早く依頼を済ませてラボを訪れたキリークは、メンテナンスを受けている研究室の隅っこで装備できない寄生防具をおもちゃにしている息子達を目撃し、何があったのかはあえて聞かないことにした。


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