M.D.F.L.Intermission2

 楽夢界、ナイトピア。
 青い空の高みを、時に引き離し、時にもつれ合うように飛び抜ける青銀と赤金の光の流れ。
 やがてそれは高度を落とし、林のはずれの一本の木の梢に突っ込んで止まった。
 満開の白い花が、雪のように舞い散る。
「…結構やるな、リアラ」
 大きな枝にしがみつくようにして、ナイツは楽しげに笑う。
「おまえこそ」
 同じように息を整えながら、リアラも表情の乏しい青白い顔に笑みを刻む。
 鬼ごっこじみた競争を終えて、二人のナイトメアンは並んで枝に腰掛けた。
「ナイツ…憶えているか?」
「ああ」
「昔も……ずっと昔もこんなふうに遊んだよな。悪夢界の闇の中だったけど」
「……ああ」
「ずいぶん遠くまで来てしまった…いろんなことがあった」
「……そうだな」
「ナイツ…」
「………」
「ナイツ。…愛しているよナイツ」
 そっと…ややおずおずと、リアラはナイツの肩に手をかける。
 リアラから視線をはずし、戸惑うようにうつむくナイツ。

 判っている。
 答えが出せていないこと。
 自分はまだ、〈友達〉と同列の位置にいるのだということ。
 それでもいい。
 この手を払いのけたりはしないのだから。
 否定されては―――いないのだから。
 ほんのかすかに染まった頬は……私を拒絶していない証と思っても、許してくれるだろう?

「ナイツ」
 両肩に手をかけて、リアラはナイツに正面から向き合う。
「お前が喜んで―――微笑んでくれるなら、私は……何でもするよ」
「何でも……?」
「いやその…ワイズマン様を裏切るのは勘弁してくれよ」
 見上げる瞳にたじろぎながら、リアラは続ける。
「私には…今でもご主人様だ。
 お役に立てず、捨てられ縁を切られても、敬愛していた記憶と心は捨てられん…」
 意味合いを誤解されないかと冷や汗をかきつつ弁解するリアラ。
 ナイツはただ黙ってリアラを見つめていた。けして冷たくはないまなざしで。
「ナイツ………」
 リアラはナイツの瞳を見つめ、肩を握る手に知らず力を込める。
「………………」

 リアラは唐突に、ナイツの肩を背後に押しやった。
「え……リアラ………っ!?」

「ヘンだなぁ」
 エリオット・エドワーズは林の中をさまよい歩いていた。
 いつも落ち合うはずの場所に、今日はナイツの姿がない。
 薮を分けてみても、いるのは昼寝中のナイトピアンくらいのものだった。
「……どこにいったんだろう」
 小首をかしげてまた探しに歩きかけた彼の耳に、奇妙な声がとどいた。

「あ…」

「?」

「ああ……」

(????)

「リアラ……」
 吐息混じりの声と、衣擦れに似た音。
 下生えの葉を押し分けるがさがさという音。

(!!!!!!)
 
「どうだナイツ。気持ちいいか?」
「ん……ぅん……いい……」
「そうか……じゃ、ここを、こう…っと」
「あっ……ああっっ!!」
 びくん、と跳ね上がる気配。
「リアラ…そ、そこっ!いいっっ!
 きもちいいよぉ…リアラぁっ!」
「可愛い声だ…
 喜んでもらえて…嬉しいよナイツ…」

 ざ――――っ。←血の気の引く音。

 すぐそばの茂みの向こうから聞こえる声になかばパニックを起こしているエリオット。
 しかして事態は更に混乱する。
「エリオット?何してるの?」
 手分けしてナイツを探していたクラリス・シンクレアが、硬直している彼を見つけて近づいてくる。
「あわわわわわわ」
 心臓が飛びだすよーな思いで、〈来てはだめ〉の合図をするが、彼女には判らない。
「?……どうしたの?」

「あっ…んんっ……」
ぎしり、と何か軋むような音。
「!!――うっ、あああっっ!!リ、リアっっ!!」
「あ……ああ、すまん。強くしすぎたか」
「痛い……」
「泣くな。すぐ楽になるから。………どうだ、今度は?」
「ん……うん………いい………」

 ざ――――――っっ。←血の気の引く音。

 みるみるうちにクラリスの顔が青ざめる。なすすべもないエリオットの前で、クラリスは拳を固めてふるえ出す。
「ふ……っ………ふ、不………」
 そして――――――爆発。

「不潔よおおっっっ!!二人ともおおっっ!!」

 怒りにまかせて薮を蹴散らし飛び込むクラリスと、慌ててとりあえず後に続くエリオット。

「ふにゃ?」
「んっ?」

 緑の下生えとしっとりした苔のクッションにしどけなく横たわったナイツと、すんなり伸びた足下に膝をついてふくらはぎのあたりをマッサージしているリアラ。

ずるべしあっっ!!

 カラ回りしてコケた二人の前で、ナイツは立ち上がって大きく伸びをした。
「ん―――――っっ、ああ、すっきりした♪」
「順応してたってこっちは属性が違うんだ。たまにはリフレッシュしないといかんぞ」
「サンキュー、リアラ」

心底健全に絆をはぐくむ二人であった。

「あああああああ」
「ま………まぎらわしい…………」

「なんだ二人とも。疲れてないか?」
「いやその……」
「平気……」
「よかったらお前らもやって貰うか?リアラのやつ、すっごく上手だぜ」

「練習台がキルクルやパーティしかおらんからな、習得は大変だったぞ。
 人間(ビジター)が相手じゃ力加減が判らん。潰すかもしれんが、やるか?」

「「結構です。」」


おひまい。


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