M.D.F.L−Part1−2

 光の世界、楽夢(らくむ)―――ナイトピア。
 その中でもナイトメアに比較的近い位置にある、心の迷いを象徴する森………ミスティックフォレスト。
 悪夢界(ナイトメア)には違和感なく馴染み、ある意味美しくさえある“彼”の容姿も、ここではある種の毒蜘蛛を連想させる異質さばかりが先に立つ。
「……………」
 迷いの森の中、片手になにやら満艦飾の固まりを握りしめて、リアラはあたりを見回した。


「………この感情が〈恋〉というのは理解した。
 で、恋をした場合どーいう行動をとるべきなのだろう」
 …永の年月をひたすらワイズマンの側近として生きてきて、他の生き方にはめっぽう疎いリアラであった。
「それはまぁ、当然相手を獲得(げっと)するべきでしょう…この場合はナイツ様」
「で、どうすれば〈げっと〉できるんだ?」
 ワイズマンが教える訳もない事には全く無知なリアラであった。ホントかよ
「サードレベルどもは相性のいい奴同士でてきとーに番(つが)いになったりしてますけど」
 ジャックルは首をひねる。
「思考の複雑なものの場合は何かとややこしいようですな。
 人間など観察してみると、やはりこう、〈プレゼント〉など渡して申し入れるのが定石(セオリー)かと」
「〈ぷれぜんと〉を渡して、番いになるよーに申し入れる、と」
 かきかきメモをとる、基本的に学習には生真面目なリアラであった。
「何がいいんだろう?」
「基本的にキレイなものや珍しいモノですかな。大きな花束とか」
「そうか……って、そもそも悪夢界に花なんてロクに咲かんぞ?いきなり挫折するのか!?←応用力ゼロ
「………ナイトピアで探すしかありませんかねぇ……。
 でもリアラさま、あちらの属性はお嫌いだったのでわ」
「………いや行く。
 行って大きくカラフルな花を見つけだす。ナイツをげっとするにはそれしかない」

 ………やっぱりどこか間違っているリアラであった。


「というわけでこっちにきてみたが…」
 金の鈎爪が器用に花を摘みあげる。
「どんなのが〈喜ばれる花〉なんだろーな?どーもよく判らん」
 言いながら、たった今つんだ花―――紫に黄色の斑点の散った、南国のトカゲみたいなやつ―――を片手のけばけばしい固まりの中に押し込む。
 彩りも何も無視してかき集められた、カラフルというよりはどぎつい色合いの、大きな花の……花束と言うよりは固まり。
 小振りなラフレシアみたいなの、冒険活劇小説に出てくる食肉植物そっくりなの、よくこんなのをナイトピアで見つけたな、と言いたくなるような毒々しい奴ばかりが勢揃いしている。なんかわしゃわしゃ動いてるのもあったりするし。
 珍しくて大きければいいわけじゃないんだが。
「さて……ん?」
 歩きだそうとして、風に乗ってくるかすかな音楽に気づいた。
「あれは…………」
 透明感のある、伸びやかな笛の音。ふらふらと引き寄せられるようにその音をたどり、リアラは茂みの隙間に顔をつっこんだ。
「あ………」
 茂みの向こうは木立ちの間のちょっとした広場。苔むした切り株に腰を下ろして、笛を吹くナイツのすんなりとした姿があった。

 どきん。

 なぜかあわてて、リアラはナイツから隠れる。

 どきどきどきどき。

 生まれて初めて、胸の奥が早鐘のように騒ぎ出すのに当惑しつつ、リアラはどうすればよいのか考えていた。


 笛を吹くナイツの前に突然立ちはだかるリアラ。
「!!」
 とっさに身を翻そうとするナイツの鼻先に、大きな花束が突き出される。
「………?」
 訝しげに見つめてくるナイツに、リアラはいつもの高笑いとともに鈎爪を突きつけた。
「お前が欲しいッッ!!」
 


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