『恐らくはそれさえも平穏な日々』 PART-3


依頼:殲滅作戦
 依頼主:パイオニア2評議会
 依頼内容:ラグオル調査団派遣に際し、調査区画の安全を確保する必要あり。
      VHエリア洞窟第2区画のエネミーを完全排除せよ。

 報酬:7000メセタ
 募集人員:4名


「はい、この依頼をお受けになりますね。あなたでちょうど定員です。」
 ハンターズギルドの受付嬢が、手際よく依頼請負の手続きを完了する。
「ほかのメンバーの皆さんは別室で待機中です。そちらの控え室にどうぞ。」
 無言で頷いて、キリークは指示された控え室へと向かう。その後を、取材許可証をかざしつつノルがちょこちょこついてゆく。
 控え室には、キリークのよく知った顔が並んでいた。
「あ、先輩。先輩もこの仕事受けられたんですか?……あれ、ノルさん。お久しぶり!」
 真っ先に立ち上がる『後輩』。
「珍しいな、あんたがパーティ組むなんて。」
 ツインブランドの柄をくるくる回していた手を止めて、アッシュ。
 最後の一人は黙ってキリークの顔をじっと見つめていた。
「バーニィ、だったな。久しいな。」
 キリークの言葉に、フレイムビジット小脇に抱えたレイマーは、無言で軽く頷いた。
「なんだ、キリークと知り合いだったのか?」
「まあ……以前いろいろとな。」
 奥歯にものが挟まったような、彼を知るものから見ると随分そぐわない口調で、バーニィはアッシュに応える。
「お二人とも、何か前にあったんですの?」
「プライベートな問題だ。あんたに話すことじゃない。」
 バーニィは即座にノルの質問を遮り、キリークを正面から見た。
 視線を真っ向から受け止めるキリーク。
「バーニィさん。」
 ある程度事情を察している『後輩』が、控えめに、なだめるような声をかけた。
「わかってるよ。」
 応じておいて、バーニィはヒューキャストに視線を戻す。 
「……まあ……今更、何を言うってもんでもないさ。」
 キリークは、わずかに顎を引いて黙礼を返す。
 一抹の不安を表情に残す『後輩』、なんとなく事情を感じ取ったらしいアッシュ。
 全くわかってないノルだけは、
「うーん、このメンバーで仕事か、いい絵が録れそうだわ〜♪」
 いそいそとビデオコーダーを引っ張り出しはじめていた。



 ラグオル洞窟エリア。
「よっと!」
 『後輩』の撃ったヴァリスタのフォトン弾が、ポイズントラップを爆砕する。
「うりゃ!」
 巨大化したカマキリが、バーニィのフレイムビジットの火球に包まれてくずおれる。
「囲まれるんじゃないぞ、アッシュ!」
「このくらい軽いって!」
 キリークの鎌とアッシュのツインブランドが、群れなすシャークたちを次々となぎ倒していく。
「さすがにULTエリアを楽に進めるメンバーねえ。絵になるわあああ(はあと)。」
 乱戦からやや遠巻きに、ビデオコーダーをのぞき込みつつベストアングルを探して駆け回るノル。
 その背後に、ばさり、と何かがはばたいた。
「え?――――――っきゃあああああああ!!!!!」
 絶叫してとっさに身を伏せるノルの頭上をかすめて飛び過ぎた青いビームが、キリークの脇ぎりぎりにいたパルシャークに命中する。
「!!」
 『後輩』が放ったフォトン弾が、ナノノドラゴをのけぞらせる。
 その隙に駆け寄ったアッシュとキリークの武器が、小型の変異竜にとどめをさした。


「安全になるまで部屋に入るな、といっただろうが。足手まといや任務の妨害になるなら、今すぐ帰らせるぞ。」
 レスタをかけてもらうノルに、キリークの容赦ない叱責がとぶ。
「まあ、大事には至らなかったし。」
 さすがにしょげかえるノルや、とりなす『後輩』にも、キリークの口調はゆるまない。
「おまえはこいつの護衛をやったりした縁で甘いがな、じゃ、もし大事に至ってたらどうするんだ。
 くたばったら後はないんだぞ!」
「キ……キリーク?」
 バーニィが目をまん丸くして、元宿敵をみつめる。
「あ……あんた、マジに変わったな。」
 
 一瞬言葉に詰まり、キリークはふいと視線をはずした。
 表情というものが彼にあったなら、たぶん、赤面していることだろう。

「―――――今後は気をつけろ。」
 武器を取り直し、さっさと先に立って歩き始める紫紺のヒューキャスト。
 後を追う一同の間から、バーニィは急ぎ足でキリークに追いつき、肩を並べて小声で呼びかけた。

「やっぱあれか、例のチビさんたちのせいか?あんたが変わったのは。
 実を言うと、オレもちょいと面識あるんだけどな。
 ……その……、オレもさ、あいつらには、やっぱし笑ってて欲しいなって思うわけよ。
 で、どうなんだい、旦那。親父になった気分って。やっぱあいつら可愛いかい?」
 キリークはバーニィを見やって、足を止めた。

 がしょん、と両の拳をあごの前に押し当て、内股になって全身をもみ絞るようにくねらせつつ、いつもより1オクターブは高いまるでAIが腸捻転を起こしたような声(意味不明)で、

「もぉ、かワゆーテかワゆ〜テなああア(はあと)!!?

 (一転素に戻り)

 ……とでもやれば満足か?

(いいつつ振り向いて)

 おおッ、どうしたみんな!何故全員倒れ伏して痙攣しているッ!?」


 ………合掌。



 さて、一方そのころ、子供達は。


 いきなり縛り上げられていた。


 例によってラッピー達の集落を訪れ、祭りの準備を手伝っていたところ、突然現れた人間達が手当たり次第にラッピー達を捕らえ始めたのだ。
 ハンターズスーツ姿の者が数人いることから、危険な状態のラッピーと間違えている、と判断し、止めに入ったところ問答無用に攻撃された。
 以前ノルが口にしていた『ミツリョウシャ(密猟者)』だ、とマイニィが気づき、応戦に転じてはみたが多勢に無勢。
 ラッピー達を生け捕る為のフォトンネットをかぶせられ、分子ワイヤーでがんじがらめにされてしまった三人だった。
「ちくしょー、はなせええ!!」
「ラッピーたちをどうするの、いぢめちゃだめえ!」
 イーニィ、マイニィが懸命に叫ぶのもどこ吹く風、密猟者の一人が生け捕った一羽のラッピーを引きづり起こし、首筋あたりの羽毛の中をさぐってパルス発信子を取り出した。
「言ったとおりだろ?ラッピーってのは、擬死からさめると群落にいちもくさんの習性があるって。
 その場で生け捕るより、ずっとお得ってわけだ。」
 あちこちでラッピーを網や檻に詰め込んでいる仲間達に得意げに言う。
「ここのラッピーたちは、人をおそったりしないよ!」
「バーカ、だからねらい目なんじゃないか。
 ペットにしたがる金持ち、こいつらの羽毛に含まれる特殊フォトンの研究をしたいって科学者。
 こいつらを欲しがるやつらは大勢いるんだ。
 わざわざ危険な凶暴状態のラッピーどもと戦うなんざ、それこそバカのやるこった。」
 ミーニィはせせら笑うその男の顔をじっと見ていた。
 記憶にある顔だった。
 父親だと教えられていたキリークと初めて会った、初めてラグオルの大地を踏んだ日。
 彼が彼らに本当の名前をくれて、本当に自分たちの父になってくれたあの日。
 迷子のミーニィを騙してさらおうとした二人組の片方だった。
「オイ……ヤバイんじゃないか?」
 もうひとり。見覚えのある男が、横目でこちらを伺いながら口を挟む。
「こいつらは……」
「不幸なことだよなァ。」
 レイマー姿の男は余裕たっぷりに芝居がかった口調で言い放つ。
「三人揃って、森のエネミーにやられちまうなんて、なあ。いやいや、かわいそーに。」
 ヒューマーに向かって目配せひとつ。
「大丈夫なのかよ?」
「フォトンネットかぶせときゃ、〈BEE〉はつかえないだろ。気になるなら、携帯端末ごと、左腕もはずしちまえよ。
 あとでAIの個人
(パーソナル)データ抹消しちまえば、裏でいい値がつくだろさ。」



 ラバータで凍結したパンアームズを、キリークの武器が両断する。
「凄げ……」
「高レベルヒューキャストにシフタって、凶悪の領域だな既に。」
 アッシュとバーニィが息をのむ。
「これでこのエリアの敵は最後のようですね。」
 携帯端末をのぞき込んだ『後輩』が、エネミーのフォトン反応がなくなったことを告げる。
「よっしゃ、作戦
(ミッション)終了(クリア)!」
「たくさんいい絵がとれたわあ。大漁、大漁!」
 景気よく歓声を上げるアッシュとノル。
 キリークは無言で武器からエネミーの体液を振り落とし、バーニィはやや複雑な表情でその様子を見やる。
「さ、帰って報告にいきましょう。先輩、バーニィさん、ゲートあけますよー。」
 二人の間の微妙な緊張を緩和するように、『後輩』がお気楽な調子で呼びかけた。

 いつもの転送感覚と光のイリュージョン、そして見慣れたパイオニア2ハンターズエリアの景色。
「お疲れさん!」
「んじゃ、報告して報酬もらって、と。」
「あたしはこれから早速レポートまとめなきゃ!
 いい記事が書けそうよ、期待していてね〜(はあと)。」
「あのー。」
 『後輩』がちょっと遠慮がちに手を挙げる。
「よかったらこの後ゴハン食べに行きませんか?時間もちょうどそのへんだし。」
「え……うーん……」
「む……」
 困惑というか戸惑い気味に呻るバーニィ、キリーク。
「お子さん達なら、呼び出せばいいじゃないですか、先輩。みんなで行きましょうよ、ね!」
 しばらく無言で考えていたキリークだが、やがておもむろに携帯端末からコールをかける。
「……む?」
 反応なし。
「どうした?」
 バーニィは怪訝な顔になってキリークの手元をのぞき込む。
「応答がない?スイッチ切っちまってるのか?」
「そんなはずは……?」
 戸惑いながら何度もコールボタンを操作するキリーク。
 そこに、メールの着信ランプが点灯した。
「?」
「お子さんからですか?」
「いや……ギルドからだな。」
 展開したメールをスクリーンに表示するキリーク。

『ただ今、お子さんのアカウントで緊急救援要請が届けられました。
 詳細をご説明いたしますので、大至急ギルドにおいでください』

「は!?」
「お子さんが?」
「な……なにいいいいいいいい!!!!!?」


次 へ